研究課題
本研究では、ヒト血清アルブミン(HSA)によるナノ粒子表面の被覆状態の違いが、細網内皮系による捕捉の回避(ステルス化)ならびに抗腫瘍効果にどのように影響するかを検討し、効果的な抗がん剤治療を可能にするHSA被覆ステルス化ナノ粒子を開発することを目的としている。前年度までの細胞実験での検討において、HSAによる表面被覆率が高いナノ粒子ほどステルス化の効果が高いが、逆に殺細胞効果が低い可能性が示唆された。そこで本年度は、1粒子あたり平均12、34および81 分子のHSAで被覆したナノ粒子(12、34、81-HSAナノ粒子)をColon26担がんマウスに単回静脈内投与し、血中、各臓器および腫瘍中の薬物濃度を測定し生体内分布を明らかにするとともに、抗腫瘍効果についても評価した。本検討は、予め薬物(ドキソルビシン)を封入したナノ粒子を用いて行った。その結果、34および81-HSAナノ粒子において、高い抗腫瘍効果と薬物の血中滞留性ならびに腫瘍集積性が示された。一方、12-HSAナノ粒子の抗腫瘍効果は他の粒子に比較して低く、また、本ナノ粒子は細網内皮系に多く蓄積した。以上のように、ある程度のHSA被覆率を有するナノ粒子であれば、例え細胞実験レベルでは殺細胞効果が低いナノ粒子(81-HSAナノ粒子)であっても、担癌マウスでは有効性(抗腫瘍効果)が示されることが明らかとなった。次に、担がんマウスでの検討で有効性が高かった34および81-HSAナノ粒子について、マウス体重や各種血液生化学検査値の変化について確認したが、大きな変化はなく、本ナノ粒子の安全性が確認された。以上より、HSAによる被覆率の高いナノ粒子は細網内皮系による捕捉を回避でき、このステルス化によりがん組織へのナノ粒子の集積性が向上することから、このナノ粒子を用いた効果的かつ安全な抗がん剤治療が可能になると考えられた。
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