研究課題
神経細胞内においてαシヌクレイン(aSyn)蛋白質が重合して生じるオリゴマーは、強い毒性を示し、レヴィ小体型認知症の発症要因となる。そのため、生理条件下の aSyn に関する構造研究は、病態解明や創薬に極めて重要である。細胞内において aSyn の構造が変化することが、培養細胞に導入した aSyn の NMR 研究より報告されている。しかし、脳組織に定着した状態の細胞内における aSyn の構造研究は前例が無い。本研究は、組織に定着した神経細胞内の aSyn の構造解析の基盤構築を目的として、細胞外基質に埋包した細胞の中、生きたマウスの脳に移植した細胞の中およびマウスの摘出脳の細胞中において、13C 標識を施した aSyn を磁気共鳴スペクトロスコピー法(MRS)により観測する系を確立することを目的としている。本年度は、最初のステップとしてIn-cell NMR 法の実験系の構築に取り組んだ。電気穿孔法を利用して子宮頸がん由来の HeLa 細胞に15N 標識したユビキチン変異体タンパク質を導入し、NMR測定を行う事で、細胞内に存在する状態のユビキチン変異体のシグナルを観測することに成功した。スペクトルパターンは、細胞導入前のシグナルと概ね変わらず細胞内においても固有の立体構造が保持されていることが確認できた。これら培養細胞内において得られたタンパク質のスペクトルは、今後進める組織定着した細胞内、あるいは摘出脳内に導入した状態と比較対象として利用できる。しかし、得られたシグナルの強度は、過去に報告された同タンパク質の In-cell NMR 観測の結果に比べて10分の1程度しかなかった。原因として、タンパク質導入操作の過程において、多くの細胞が容器に吸着あるいは死滅するなど、全体の細胞数がロスしてしまい、試料管に封入した細胞の数が少なくなってしまうことが挙げられる。
2: おおむね順調に進展している
今年度は培養細胞に導入してタンパク質をNMRで測定する In-cell NMR 系の構築を計画していた。ユビキチン変異体タンパク質を導入した細胞の観測に成功しており、概ね順調に計画が進んでいると考える。一方で、導入したタンパク質の濃度が、予想される濃度に比べて10分の1程度しかなく、細胞へのタンパク質導入手順について改良する必要がある。
細胞内に導入したタンパク質が試験管内と異なりどのように観測されるか十分に把握した後に、次段階である再構成系の構築、摘出脳の計画を進めたいと考えている。現状、細胞内のユビキチン変異体のシグナルを観測することに成功したが、感度等についてはまだ改良する余地がある。そのため、次年度もIn-cell NMR 系の構築に注力する。
予定していた細胞培養実験の一部が来年度に持ち越しとなり、使用予定であった数万円程度の試薬の購入を来年度に先送りにした。来年度、同実験を行う際に使用する予定である。
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Biochemistry
巻: 59 ページ: 3639~3649
10.1021/acs.biochem.0c00414