研究課題/領域番号 |
20K07002
|
研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
深水 啓朗 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (20366628)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 低波数ラマンスペクトル / 結晶構造 / 配向 / 異方性 |
研究実績の概要 |
ラマン分光法は医薬品製剤の新たな品質管理手法として応用が期待されている.その中でも低波数領域のラマンスペクトルは結晶構造の特徴を鋭敏に反映し,結晶多形に関して粉末X線回折と同等の識別能を有していると考えられる.しかしながら,得られた特徴的な散乱ピークの由来は未解明であることから,本研究では実験的なアプローチによるピークの帰属を目的の1つとしている. 2020年度はアセトアミノフェンをモデル原薬として用い,得られた単結晶の視覚的に識別できる各試料面について,低波数ラマン測定および粉末X線回折測定を行った.また,低波数ラマン測定の校正に標準品として用いられているイオウについても検討した. アセトアミノフェンについては安定形であるⅠ形の単結晶が調製できたので,各結晶面について粉末X線回折測定を行ったところ,いくつかの面で単一の回折ピークが認められたことから,既知の結晶構造からシミュレートした回折パターンと比較することにより指数付けを行った.同様に,アセトアミノフェン単結晶の各結晶面について低波数ラマン測定を行ったところ,計4種類の特徴的な散乱ピークが認められ,結晶面によって特徴的なパターンが観察された.結晶構造を表示できるソフトウェア上で,各結晶面から投影される分子配列について検討したところ,芳香環の向きによって散乱ピーク(パターン)に違いが認められることが示唆された. イオウでも同様のアプローチを試みたが,単原子結晶であるイオウでは各結晶面の間で明確な差は認められなかった.このことから,アセトアミノフェンのような分子結晶で観察されるスペクトル(ピーク強度)の異方性は,結晶(分子)の配向に起因していることが推察された.今後,結晶構造が既知で単結晶が得られやすい試料について同様の検討を行い,知見を蓄積することにより,何らかの法則性が見出されると考えられた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染拡大により,緊急事態宣言が繰り返し発動されたため,研究活動の自粛や制限を余儀なくされた.また,大学では講義や実習あるいは定期試験などの学務について,例年とは異なる新たな対応に時間と労力が割かれたため,研究活動に対するエフォートが低下した.現在も継続して,感染対策を徹底するなどの工夫を凝らして,研究活動の再開,維持に努めているが,いまだ困難な状況が続いており,より一層の工夫が必要である.
|
今後の研究の推進方策 |
現状,新型コロナウイルスの感染拡大が収束せず,いまだに様々な活動が制限されているが,本学では大学院生を中心に,3密を避けるなどの基本的な対策により,通常の半分程度を目安に研究活動を維持している.研究室内の打ち合わせやセミナー等は,Web会議ソフトを活用することで,利便性はこれまでよりもむしろ向上しているので,今後は学外ならびに海外の研究協力者にも範囲を拡大する予定である.今年度は,本研究課題に直接的に取り組む大学院生が4名,学部生が2名,当研究室に所属している.また,製薬企業から大学院研究生および客員研究員についても,それぞれ2名が所属していることから,広く緩やかに連携することで,本研究課題に対する様々なアプローチの試行,あるいは調製および評価に用いる機器・装置の補完が可能となることから,この困難な状況下においても研究を推進できると考えている.上述した大学院研究生および客員研究員が所属している副次的な効用として,実産業におけるニーズを確認しながら研究を展開できることも期待できる.学会発表などを通じた情報公開に関しては,オンラインでの開催が普及し始めていることから,各種の検討について遅れを取り戻すとともに,学会等において成果を公表する機会を増やすことも検討している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大にともない,研究活動が著しく制限されたために使用計画が未達となり,次年度使用額が生じた.今後,感染対策を徹底しつつ,研究活動を再開および維持すること,オンライン会議システム等の新たな技術を活用することにより,遅れを取り戻す計画である.
|