低波数領域のラマン分光法は結晶格子の振動スペクトルであり,分子配列の状態を反映することから,医薬品原薬あるいは製剤の新たな品質管理手法として応用が期待されている.本研究の最終年度となる2023年度は,前年度に引き続き,学会発表等の機会に反響の大きかった撹拌造粒の結晶状態モニタリングや,基本に立ち返って共結晶などの新規結晶径帯のキャラクタリゼーションに取り組んだ.また,散乱ピークの実験的手法による特定についても継続しており,複数の原薬で低波数ラマン測定時の配向現象について再現性を含めて実測定例の蓄積による一般化に努めた. 昨年度までに,湿式の造粒工程において,可溶化した結晶形態の水添にともなう解離現象の検出手法をある程度,確立できているので,引き続き,他のモデル原薬についても検討した.ニューキノロン系の合成抗菌薬であるレボフロキサシンについて新たに検討したところ,添加剤を含む原料粉体の流動性が悪く,撹拌造粒装置のトルクが不十分であったため,造粒途中で作業を中断する事態に陥った.そこで装置の駆動モーターを強化し,より広範な粉体に適応できるように改良したところ,レボフロキサシンの水和状態が造粒中に転移する様子を捉えることができた.また,流動性の低いイブプロフェンについても造粒が可能となり,モニタリング測定を行うことができた. これまでアセトアミノフェンの晶癖とラマンスペクトルの配向性について検討してきたが,新たなモデル原薬としてオンダンセトロン二水和物とフェニトインについても単結晶を調製し,異なる面に入射した際のラマン散乱光を計測した.その結果,アセトアミノフェンほど明確ではなかったものの,結晶面に応じた配向が認められたことから,今後,X線回折測定により面指数を特定し,各原薬の結晶構造との関連について考察を深める予定である.
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