研究課題/領域番号 |
20K07006
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研究機関 | 兵庫医療大学 |
研究代表者 |
前田 初男 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (00229311)
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研究分担者 |
塚本 効司 兵庫医療大学, 薬学部, 講師 (00454794)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / ポリスルフィド |
研究実績の概要 |
前年度、2-nitrobenzenesulfonyl fluorescein (1) が選択的なポリスルフィド蛍光プローブとして機能することを見出した(現在、追加データを取得しつつ論文作成中)。この知見に基づき、より高感度かつ高選択的なポリスルフィド蛍光プローブを設計開発するため、基盤となる新しい蛍光色素の開発に着手した。すなわち、その 2-nitrobenzenesulfonyl 誘導体が 1 に比べてポリスルフィド類に対してより反応生(応答性)が高く、より長波長側で蛍光応答を示す蛍光色素の開発に取り組んだ。その結果、酸無水物 X と 2 当量のレゾルシノールをメタンスルホン酸中 50°C で 48 時間加熱することにより、新規の蛍光色素・Kobe Green を収率よく合成することに成功した。この蛍光色素は、fluorescein とほぼ同等な蛍光特性(励起波長、蛍光波長、蛍光量子収率)を示したが、蛍光波長の長波長側へのシフトは観察されなかった。しかし、その化学反応特性は fluorescein とは大きく異なる。すなわち、2 つのフェノール性水酸基と 1 つのカルボキシル基をもつ fluorescein では、そのフェノール性水酸基が優先的に求電子剤と反応するが、fluorsceinと同様に2 つのフェノール性水酸基と 1 つのカルボキシル基をもつ Kobe Green ではカルボキシ基が優先的に acetyl chloride、2-nitrobenzenesulfonyl chloride などの求電子剤と反応することが明らかになった。この反応特性を活用し、現在、酸無水物 X と置換レゾルシノールから様々 Kobe Green 類を合成し、その蛍光特性ならびに化学反応特性を評価するとともに、それらを基盤色素としポリスルフィド蛍光プローブの設計開発に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規蛍光色素 Kobe Green の合成ならびに蛍光特性および化学反応特性の詳細な評価に、予想以上に時間を要した。その結果、見かけ上、本研究の進捗状況は計画通りには進行していない。しかし、これらの評価研究を通して、ポリスルフィド蛍光プローブの新規設計戦略の立案に導くであろうヒントを得ている。すなわち、(1) 蛍光色素 Kobe Green を設計開発できたこと、(2) 2つのフェノール性水酸基と 1 つのカルボキシル基をもつ Kobe Green は、fluorescein とは異なり、カルボキシル基の反応性が非常に高いこと(フェノール性水酸基の反応性が非常に低いこと)を見出している。その結果、反応性の高いカルボキシル基を 2-nitrobenzenesulfonyl ではなく全く新しい保護基で修飾することにより、ポリスルフィド類との特異的反応により脱保護され蛍光スイッチがオンとなる全く新しいタイプのポリスルフィド蛍光プローブが設計できる、という作業仮説を立案し、現在、より実用的なポリスルフィド蛍光プローブの設計開発に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
既に開発に成功している 2-nitrobenzenesulfonyl fluorescein (1) の実用性をさらに拡充するため、ヒト血清アルブミン (HSA) を二硫化水素と処理し、ポリスルフィド化 HSA を合成する。これをポリスフィド化タンパク質の代表例として、1 のポリスルフィドだけでなくポリスフィド化タンパク質に対する特異的かつ高感度な蛍光プローブとしての有用性を評価する。その結果を踏まえ、必要ならば、異なる化学反応特性を示すと期待できる 2-nitrobenzenesulfonyl 2', 7'-subustituted fluorescein (1') 類を設計開発し、ポリスルフィド/ポリスルフィド化タンパク質の体内動態の解析に実用的なポリスフィド蛍光プローブの開発に取り組む。なお、2' と 7' の置換基としてはフッ素、塩素、メチル、メトキシなどを想定している。 電子吸引性または電子供与性置換基を導入した酸無水物 X またはナフタレン骨格を有する酸無水物 X 類縁体を用いて、新規蛍光色素 Kobe Green 類のより効率的かつ一般的な合成法の確立に取り組むとともに、合成した Kobe Green 類の蛍光特性ならびに化学反応特性を詳細に評価する。得られた知見に基づき、2-nitrobenzenesulfonyl 基ではなく、Kobe Green 類に最適な保護基をスクリーニングし、Kobe Green 類または長波長側に蛍光特性をもつ Kobe Red 類を基盤蛍光色素とするポリスルフィド/ポリスフィド化タンパク質の可視化計測に実用的な蛍光プローブの設計開発に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
発生した 2022 年度使用額は、COVID-19禍の影響により学会発表ができていない、つまり出張旅費が予定通りに執行できていないことに由来する。しかし、最終年度は、COVID-19感染状況も治まりつつあるだけでなく、(A) 2-nitrobenzenesulfonyl fluorescein (1) のポリスルフィド化タンパク質に対する高感度かつ高特異的な蛍光プローブとしての実用性について検証を終える予定であること、(B) 新規蛍光色素 Kobe Green または Kobe Red の効率的かつ一般的な合成法を確立し、それらの蛍光特性および化学反応特性についての評価を終える予定であること、(C) Kobe Green または Kobe Red を用いたポリスルフィド/ポリスルフィド化タンパク質に対する新規蛍光プローブを設計開発できる予定であること、などから、学会発表、論文発表(英文チェックを含む)などに要する経費を含めて最終年度の研究費を効果的かつ計画的に執行できると考えている。
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