免疫刺激による抗体産生機構の研究は古くから活発に行われている一方で、焦点は免疫学的機構や親和性成熟に当てられており蛋白質工学的な視点での研究は少ない。IgG抗体は軽鎖と重鎖の組合せを考慮する必要があり、経時的な体細胞変異を解析するのは非常に難しく複雑であるが、シングルドメイン(VHH)抗体を利用することで組合せの考慮はなくなり経時的な体細胞変異解析が可能になる。申請者らが独自に開発した「抗体配列進化追跡法」(ラクダ科動物アルパカへの抗原免疫と次世代シークエンサー解析を組み合わせたシングルドメイン抗体取得技術)により、ある蛋白質抗原を免疫した場合のNGS解析データから、経時的な抗体変異の推移データを得ており、このアミノ酸配列を時系列に比較することで体細胞変異による物性影響を包括的に評価できると考える。 本研究では選出した50配列(免疫初期 10配列、中期 21配列、後期 19配列 計50配列)のうち45配列について、大腸菌によるVHH抗体の作製(内11配列は発現せず、抗体の取得ができなかった)を行い、抗原結合能と熱安定性の評価を行った。2週間おきの免疫刺激によりVHH抗体へ変異が挿入され、VHH抗体の抗原結合能が上昇する一方で、熱安定性の低下が認められた。一方で、アルパカでの体細胞変異挿入の法則はIgG抗体での既報と似ており、相補性決定領域(CDR)の1および2において、免疫初期と中期で変異が入りやすい傾向を確認できた。これらの結果から、ゲノムには安定性の高い抗体配列が保存されており、変異の挿入により安定性は低下したと推測され、生体内での抗体の選抜には熱安定性は必ずしも必須ではないと考えられる。本研究成果を日本蛋白質科学会および日本抗体学会にて報告を行った。
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