研究課題/領域番号 |
20K07012
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
西村 和洋 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (60302569)
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研究分担者 |
内田 雅士 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (90824574)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プリンヌクレオチド / Paics / 遺伝子ノックダウン / イノシン一リン酸 / Impdh |
研究実績の概要 |
本研究は、プリンヌクレオチド合成に関わるPaics遺伝子、Impdh遺伝子が細胞内ポリアミンによる発現制御を介して細胞増殖に寄与する可能性から、ポリアミンによる核酸合成の促進機構を明らかにすることを目的としている。 (1)マウス乳癌由来FM3A細胞をポリアミン生合成阻害剤存在下で培養すると、IMPDHタンパク質の低下が見られたが、マウス繊維芽細胞であるNIH3T3で検討した結果、IMPDHの低下は認められなかった。そのため、プリンヌクレオチド合成酵素の一つであるPAICSがイノシン一リン酸(IMP)減少の普遍的な要因であることが示唆された。 (2)Paics遺伝子をノックダウンしたNIH3T3細胞は細胞増殖が阻害された。さらにIMP添加による増殖の回復が見られなかったため、ヒポキサンチン(Hypo)の添加実験を行った。しかし、回復は認められなかった。これらの結果より、NIH3T3細胞ではサルベージ経路よりもプリンde nova合成経路が細胞増殖に大きく寄与していることが示唆された。 (3)細胞増殖への寄与に対する普遍性が強く示唆されたPaics遺伝子について、ヒト由来の細胞株での影響を検討した。ポリアミン生合成阻害剤存在下で培養した細胞株は子宮頸がん由来HeLa細胞株、肝癌由来HepG2細胞株である。しかしながら、これらの細胞株ではPAICSタンパク質の低下が認められなかった。これらの結果より、マウスとヒトにおける生物種の違いが存在する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FM3A細胞とNIH3T3細胞を用いた検討から、Paics遺伝子の発現が細胞増殖に重要であることが明らかとなり、マウスにおいてポリアミンによる発現制御の標的遺伝子であることが強く示唆された。もう一つの標的遺伝子の候補だったImpdh遺伝子は普遍性が見いだせずに予想外の結果となっている。ただし、Impdh遺伝子はImpdh1とImpdh2でファミリーを形成しているため、より詳細は検討が必要だと考える。 続いて、今年度はヒト細胞株を用いた検討を進めることが出来た。その結果、マウス細胞株で見られたようなPaics遺伝子の発現制御を見出すことが出来なかった。このことから、ポリアミンによる発現制御において種差が存在することが強く示唆された。今後、もう少し複数の細胞株を用いた検討の必要性があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、マウスとヒトでポリアミンによるPaics遺伝子の発現制御機構が異なる可能性が示唆されたことから、これまで検討した細胞株と異なるマウス及びヒトの細胞株を用いてPAICSタンパク質がポリアミン生合成阻害により影響を受けるか再検討する。その結果、種差が存在することが明らかになった場合、発現制御に関与する違いはマウスとヒトのPaics mRNAの違いによるものだと予想している。これまで行ってきた研究からポリアミンによる翻訳制御がmRNAの5'-非翻訳領域(5'-UTR)を介して行われてきていることを数多く見出している。マウスとヒトのPaics遺伝子を調べてみるとそのような可能性が示唆される特徴も見られた。そこで、レポーター遺伝子を用いたポリアミンによる翻訳制御機構の解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末までに物品購入の見積額と実際の購入額に差がでたため、少額の次年度使用額が生じた。
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