研究実績の概要 |
医薬品による薬効や副作用の個人差は、医薬品成分の血中濃度や反応性代謝物生成など、薬物動態の違いに起因する場合が多い。特に、肝臓に発現するシトクロムP450 (P450, CYP) やUDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT)、加水分解酵素などの薬物代謝酵素の活性や発現量の差が薬物動態に与える影響が大きいことが知られている。薬物代謝酵素の発現制御に関して、従来の研究では転写制御に焦点が当てられてきた。しかし、P450分子種の中には複数の個人肝検体におけるmRNAとタンパク質発現量の間に相関が認められないものもあり、転写後調節もまた重要な発現制御機構と考えられるが、薬物動態制御におけるその機能的意義は十分に解明されていない。本研究では、RNA上において頻繁に認められる塩基修飾であるアデノシン6位メチル化 (m6A修飾) が、ヒト肝におけるP450の発現の個人差にどの程度寄与しているか明らかにすることを目的とした。ヒト肝由来細胞において、m6A修飾関連酵素をノックダウンすることでヒトにおける主要薬物代謝酵素であるCYP1A1、CYP2B6、CES2の発現変動が認められた。またCES2は薬物代謝に加えて脂質代謝も担うことが知られており、m6A修飾により肝脂質蓄積が促進されることが示された。以上の結果より、m6A修飾がこれらの薬物代謝酵素の発現を負に制御することが示され、ヒトにおける薬物代謝能の個人差をもたらす新たな要因としてm6A修飾の重要性を初めて明らかにすることが出来た。
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