研究課題/領域番号 |
20K07017
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
肥田 重明 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (10345762)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 炎症 / シグナル伝達 / アレルギー / サイトカイン / 常在細菌 |
研究実績の概要 |
アレルギー疾患や寄生虫感染における生体防御では、主に2型の免疫応答が関与することが知られている。特に炎症初期のヘルパーT細胞のTh2細胞への分化を促すIL-4を産生する自然免疫細胞と外来因子を認識する受容体については、ほとんど明らかになっていない。皮膚,粘膜系に存在する常在細菌が産生する分子や環境中の植物由来分子などのタンパク質や代謝産物は、Th2バランスに影響を与え、アレルギー疾患などの慢性炎症の発症や増悪に関与していると考えられる。常在細菌由来の生理活性分子群による免疫反応の分子メカニズムを明らかにすることは、健康維持や疾患発症の発症や悪化を含めたQOLを考える上で重要な課題である。本研究課題では、IL-4, IL-13等のTh2サイトカイン産生や化学伝達分子放出を指標にブドウ球菌由来分子や植物由来分子について、免疫制御作用を調べた。黄色ブドウ球菌由来の分子は、マスト細胞や好塩基球に対して、Th2サイトカインなどを誘導する分子やIgE/抗原刺激を増強する作用を持つ分子が存在することを明らかにした。その一方で、表皮ブドウ球菌由来分子は、IL-4産生を誘導せず、IL-6やIL-12p40などの1型のサイトカイン産生を誘導した。好塩基球を活性化する表皮ブドウ球菌由来分子は複数あり、分泌分子と菌体成分があることを観察できている。また、植物由来プロテアーゼアレルゲンについても、スクリーニングを行ったところ、受容体の候補遺伝子を同定した。これらの分子の解析を行うことで新しいアレルギーなどの治療標的分子を同定できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
常在細菌の1つである黄色ブドウ球は、アトピー性皮膚炎との関連が示唆されている細菌である。黄色ブドウ球菌由来の分泌タンパク質には、マスト細胞の脱顆粒を増強したり、好塩基球にIL-4を産生させる生理活性物質が存在していた。本年度は、これらのタンパク質には様々なドメインが存在し、種々の変異体を作成することで、炎症を誘導する活性に重要なアミノ酸配列について解析を行った。また、皮膚ブドウ球菌についても類似の解析を好塩基球で行ったところ、黄色ブドウ球菌とは異なり、菌体や細菌培養上清刺激でIL-6やIL-12などの1型サイトカインが産生したがIL-4を産生する分子はないことが観察できた。細菌の培養上清中のタンパク分子は、TLR2依存的にサイトカインを分泌することをTLR2遺伝子欠損マウス由来の好塩基球で明らかにした。また、植物由来プロテアーゼアレルゲン パパインによって、培養好塩基球はIL-4, IL-6, IFNを産生することを明らかにしている。さらに、複数の遺伝子改変マウスの好塩基球を調べたところ、パパインによるIL-4産生は抗体受容体のアダプター分子FcRγを介していることを報告した。興味深いことにIL-4産生はプロテアーゼ活性に依存しているが、その他の炎症性サイトカインはプロテアーゼ活性には依存していなかった。これら結果は複数の受容体が存在する可能性を示唆している。 またT細胞から産生される IL-3 などのサイトカイン存在下で、細菌由来毒素や植物由来のアレルゲンに対する反応性が顕著に増強された。さらにin vivoの実験系においても、IL-3を投与することで、顕著にIgE依存的な好塩基球のサイトカイン産生能が増加した。骨髄由来培養好塩基球を用いてIL-3 依存的にmRNAが増加する分子を同定できたことから、これらの分子群の解析を行うことで新しいアレルギーなどの治療標的分子を同定できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
黄色ブドウ球菌由来分子は、好塩基球やマスト細胞を活性化し、アレルギー炎症を促進する可能性を示唆した。一方で表皮ブドウ球菌由来の分子は、IL-4を産生誘導せず、IL-6やIL-12を産生することが明らかになった。皮膚や粘膜に存在する常在細菌叢由来の分子が全身のTh2バランスに影響を与えている可能性がある。Thバランスを考えるとIL-4産生を誘導する分子メカニズムの解析が重要であると考えられる。とくに好塩基球やマスト細胞の細胞表面上に発現している病原体センサー分子が機能していると考えられた。これまでに受容体を同定できていないが、遺伝子改変マウス由来好塩基球でブドウ球菌由来分子やパパインに対しサイトカイン産生能が低い系統があった。今後、NFAT依存的にGFPを発現するレポーター細胞を用いて、いくつかの受容体候補分子の機能解析を行う。細菌由来分子の生体内での生理的な役割について、皮膚炎、食物アレルギーモデル,喘息モデルやなどを作成して症状への影響を調べる。さらに細菌由来分子に対する中和抗体,阻害ペプチドや低分子化合物を用いて、in vivoでモジュレーション可能か否かについて検討を加えていく。卵白アルブミン特異的なT細胞受容体トランスジェニックマウス(OT-II Tg)を用いて、CD4+ヘルパーT細胞のTh2分化への影響を検証し、疾患発症や悪化に関与するか検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題で、重要なブドウ球菌由来分子を同定するため、共同研究へ質量分析を依頼した。新型コロナ感染症などの影響で、業務が大幅に増大したこと、また、準備したサンプル量が不足するなど解析が不十分だったため、すべてのサンプルの解析は次年度まで延長することになった。また遺伝子改変マウス由来の免疫細胞を用いたRNAsequence解析についても年度内に終了することができず、次年度に追加で解析を行う。また、これらの結果を本年度中に論文として報告するために次年度に研究費を使用する。
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