これまでに、プロスタグランジン(PG)膜輸送体SLCO2A1 KOマウスの自発的運動量の低下が示された。本年度は、in situ hybridization (ISH)により軟膜や血管内皮にSLCO2A1の強い発現を観察し、神経細胞では細胞体及び軸索にかけて広く分布を認めた。LPS投与後のマウス大脳皮質、視床下部及び海馬のSlco2a1 mRNAの発現(RT-PCR)に有意な変化はみられなかった。マウス脳から単離した神経細胞におけるSlco2a1 mRNA発現はミクログリアやアストロサイトより高かった。これらの結果から、神経や血管内皮に発現するSLCO2A1が情動行動や脳組織中PG濃度調節に関わることが示唆された。一方、軟膜や血管内皮細胞の発現についてはISHとIHCの結果が必ずしも一致せず、SLCO2A1は浸透圧感受性ATP放出チャネルMaxi-Clとしても機能するため、上衣細胞や内皮細胞に発現するSLCO2A1タンパク質構造が他の細胞と異なることも予想された。血管内皮に高発現するMaxi-Cl機能の発現に必須なANXA2がPG輸送調節因子としても働くことは実証できたが、浸透圧や物理刺激の影響を受けやすい内皮細胞でSLCO2A1の機能を解明する必要があり、SLCO2A1が如何に血液及び組織中PG濃度を調節するかは今後の課題として残された。SLCO2A1以外の膜輸送体では、ミクログリアや神経細胞でSlco2b1、アストロサイトではOat3、Slco1a4、Abcc4の発現がSlco2a1より数倍から数十倍有意に高くPG動態への関与が示唆されたが、これらの輸送体による複合的なPG動態調節機序を評価し得る実験系の構築には至らなかった。本課題で作出されたMrp4KOマウスでは、脾臓等の組織でPGE2濃度が減少することが示され、今後、有用なツールとなることが期待された。
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