重症筋無力症(Myasthenia gravis : MG)は、神経筋接合部のシナプス後膜上にある幾つかの標的抗原に対する自己抗体の作用により、神経筋接合部の刺激伝達が障害されて生じる自己免疫疾患で、自己抗体の70%以上はニコチン性アセチルコリン受容体α1サブユニット(α1nAChR)に対する抗体である。また、その抗体のエピトープとしてWNPDDYGGVKやKVLLQYTGHIといったmain immunogenic region(MIR)が同定されている。現在のMG治療は全て対症療法であり根治的治療法は存在しない。根治のためには自己抗体のメモリーB細胞を駆逐する必要がある。最近、B細胞性がん細胞を駆逐する方法として細胞傷害性T細胞(CTL)を利用するCTL誘導二重特異性抗体(Bispecific T-cell Engager : BiTE)ブリナツモマブが上市された。ブリナツモマブは、B細胞上に発現するCD19に対する抗体とCTLを誘導するための抗CD3抗体(OKT)のsingle chain Fv(scFv)を接続したタンパクである。本研究では、MGの病因となる自己抗体産生メモリーB細胞を駆逐する方法として、上記BiTEを改良した医薬品の開発を目的とした。MIRを含む様々な構造のα1nAChR細胞外領域(α1nAChRex)とOKTのscFvを様々なリンカー(GS、PGGGGS、3xGGGGS、DKTHTGSなど)で接続したα1nAChRex-OKTタンパクの設計を行い、それぞれのタンパクの安定性、CD3及びα1nAChR抗体への反応性を確認した。しかしながら、いずれのα1nAChRex-OKTタンパクも自己抗体産生メモリーB細胞、α1nAChR抗体との結合が確認されなかった。
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