研究課題
【目的】概日時計の障害は肥満の原因となる。しかしながらエネルギー代謝を調節する主要な組織である脂肪組織における概日時計の障害が、いかにして肥満を誘発するのかについては不明である。脂肪組織は、白色脂肪組織、褐色脂肪組織、そしてベージュ脂肪組織に大別され、それぞれの機能は、過剰な脂質の蓄積(白色脂肪組織)及び熱産生(褐色脂肪細胞、ベージュ脂肪細胞)である。本年度は、白色脂肪組織におけるインスリン感受性を脂肪組織特異的Bmal1欠損マウス(A-Bmal1 KOマウス)を用いて解析した。【結果】通常食を用いて飼育したA-Bmal1 KOマウスの体重は、コントロールマウスと比較して同程度であった。A-Bmal1 KOマウスの呼吸商は概日リズムを欠いており、1日を通じて高値を示した。また休息期における血中遊離脂肪酸量の低下が認められた。インスリン負荷試験において、A-Bmal1 KOマウスは急激な血糖値の低下を示し、測定時間内において血糖値が回復することはなかった。そこでインスリン投与後のグルコースの分布を解析したところ、精巣上体脂肪組織ならびに皮下脂肪組織におけるグルコース取り込み量の増加が認められた。一方、骨格筋ならびに肝臓への分布はBmal1flox/floxマウスと同程度であった。次いで精巣上体脂肪組織におけるインスリンシグナル伝達活性をAKTのリン酸化の程度を指標に評価した。インスリンシグナル伝達活性は、Bmal1flox/floxマウスとA-Bmal1 KOマウスの何れもが日内変動を示した。またいずれの時間においてもA-Bmal1 KOマウスの方が高い伝達活性を示した。【結論】以上の結果は、BMAL1は微小環境(脂肪組織)におけるインスリン感受性制御していることを示している。
2: おおむね順調に進展している
理由本年度は、概日時計調節において中心的な転写因子であるBMAL1を脂肪細胞特異的に欠損したマウス(A-BMAL1 KOマウス)を作製し、そのエネルギー代謝に関する特徴をインスリン感受性の観点から解析した。その結果、A-Bmal1 KOマウスは,血中遊離脂肪酸量が低下しており、インスリン感受性が亢進している可能性が示された。この可能性はインスリン投与後のグルコースの分布、インスリン負荷試験さらにはインスリン伝達活性の解析によっても示された。昨年度、我々はBMAL1を褐色脂肪細胞特異的に欠損したマウス(BA-BMAL1 KOマウス)を作製し、そのエネルギー代謝に関する特徴の解析した。その結果、BA-Bmal1 KOマウスは,褐色脂肪細胞における熱産生と全身のエネルギー消費が軽度に低下しており、肥満体質である可能性が示唆された。また高脂肪食負荷により BA-BMAL1 KO はコントロールマウス以上の肥満を呈した。すなわち現在までに体内時計システムの破綻が肥満発症を促す機序として白色脂肪組織におけるインスリン感受性の亢進と褐色脂肪組織におけるエネルギー消費の低下を明らかにすることができたため、概ね順調であると判断した。
脂肪組織特異的Bmal1 欠損マウス(A-Bmal1 KO マウス)を用いて、以下の検討を行う。I. 摂食調節に関する解析 ① 脂肪組織による摂食調節に関して食欲抑制サイトカインであるレプチンの存在が知られている。レプチンは、視床下部を介して交感神経を活性化することでエネルギー消費に影響を与える。またA-BMAL1 KOマウスにおける血中の糖 / 脂質バランスの変化は、エネルギー消費量に影響を与えることが予想される。そこで24時間にわたり摂餌量を測定する。② 興味深いことに血中レプチン量は概日リズムを示す。そこでA-BMAL1 KOマウスにおける血中レプチン量及び遺伝子発現量を測定する。また、視床下部におけるレプチシグナル伝達活性をレプチンレセプターの下流に存在するSTAT3のリン酸化体量から解析する。II. 白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞様の変化(ベージュ化)の解析 近年、白色細胞の一部が褐色脂肪細胞様のベージュ脂肪細胞となり、インスリン感受性を亢進することが明らかになった。脂肪細胞のベージュ化は、環境変化により容易に起こりうるため体内時計システムを欠損した本マウスでも誘発されている可能性は高い。そこでベージュ脂肪細胞のマーカーであるUCP1並びにベージュ化マーカーの発現をmRNA量及び免疫染色により解析する。さらに寒冷時における体温を測定し、機能的な変化を評価する。III. トランスクリプトーム解析による肥満原因遺伝子の検索 A-BMAL1 KOマウスの脂肪組織における遺伝子発現をコントロールマウスのそれとRNA-Sequencing(RNA-Seq)により比較する。さらにSPIED/CMAP 解析も同時に行いBMAL1の欠損に類似した(もしくは反対の)遺伝子発現パターンを誘導する低分子化合物を検索する。同定された低分子化合物に関して、時間薬物治療薬としての可能性を解析する。
(理由)キャンペーンの利用やメーカーの変更などにより効率的に物品の購入を行うことができたため。(使用計画)次年度は、メカニズム解析が中心となるため、分子生物学的実験に用いる試薬、抗体並びにELISAキットなどが中心になる。また遺伝子改変マウスの維持管理を引き続き行うための経費に使用する。さらに研究成果の発表に関する経費にも使用する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件)
Yakugaku Zasshi
巻: 142 ページ: 101-102
10.1248/yakushi.21-00169-F.
Nutrients
巻: 13 ページ: 4487
10.3390/nu13124487.
Cell Rep.
巻: 36 ページ: 109336
10.1016/j.celrep.2021.109336.