研究課題/領域番号 |
20K07021
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
高橋 典子 星薬科大学, 薬学部, 教授 (50277696)
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研究分担者 |
今井 正彦 星薬科大学, 薬学部, 講師 (40507670)
長谷川 晋也 星薬科大学, 薬学部, 講師 (60386349)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レチノイン酸 / レチノイル化 / タンパク質修飾 / シグナル伝達 / プロテインキナーゼA / ノンジェノミック / リン酸化 |
研究実績の概要 |
微量必須栄養素であるビタミンAは、体内で代謝を受け、生命の誕生・維持に深く関わるレチノイン酸 (RA) となる。現在RAは、ヒト前骨髄性白血病細胞 (HL60細胞) を顆粒球様細胞に分化誘導させることから、急性前骨髄球性白血病患者の治療に使われている。RAの作用はRA核内受容体のみで説明されるが、説明できない事象が多く報告されている。そこでRAの核内受容体を介さない別の作用機構として、レチノイル化 (RAによるタンパク質修飾) を見出し、プロテインキナーゼA (PKA) やアクチニン等がレチノイル化されていることを示した。今年度はRAによる細胞分化におけるレチノイル化PKAの役割の解明を行った。先ず、RA処理したHL60細胞の分化はPKA阻害剤によって抑制されたことから、レチノイル化PKAが細胞分化に深く関わることが分かった。次いで、RA処理により増加するPKAによりリン酸化される核内基質タンパク質を質量分析法で解析したところ、スプライシング調節因子 (SF2) を同定した。SF2はアポトーシスを抑制するMcl-1の選択的スプライシングに関与し、エキソンスキッピングを抑制する因子である。RA処理によりSF2のPKAによるリン酸化が増加し、SF2が不活化することで、エキソンスキッピングが促進し、増加したMcl-1S (アポトーシス因子) がMcl-1L (抗アポトーシス因子) を阻害して、細胞分化・増殖抑制に導くことを明らかにした。またPKA阻害剤併用がRAによるMcl-1Sの発現増加を抑制し分化を阻害すること、Mcl-1L阻害剤併用がRA誘導分化を促進することを明らかとした。以上、レチノイル化により核に移行したPKAがSF2をリン酸化することで、細胞分化誘導・細胞増殖抑制することが明らかとなり、レチノイル化PKAの細胞分化における生理的意義を解明することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところほぼ計画通りに進んでいる。同定したレチノイル化タンパク質においてRAが結合しているアミノ酸を確定するため、遺伝子変異体を作成し、細胞に強制発現させ、RA抗体を用いて修飾アミノ酸の決定を試みている。また、同定したレチノイル化タンパク質或いはRA処理後PKAによりリン酸化される核内タンパク質のRA誘導分化における役割も解明しつつある。さらに、二次元電気泳動を用いたPKA基質タンパク質の同定を着々と進めている。忍耐力を必要とするが、計画通りに着実に結果を出していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
レチノイル化タンパク質とPKA によりリン酸化されるタンパク質の新たな同定、及び、レチノイル化PKAによるリン酸化の細胞分化における役割について今年度は検討してきたが、今後はより詳細なメカニズムを解明するための研究を行う。具体的には、1) レチノイル化及びリン酸化の修飾部位 (アミノ酸) を特定する、2) 修飾部位変異体を作成し、細胞に導入する、3) 細胞分化・増殖との関連を検討する。即ち、レチノイル化・リン酸化部位の推定変異体遺伝子を作成し、RA により増殖が抑制されるヒト乳がん細胞MCF-7やヒト胎児腎細胞HEK293を用いて遺伝子導入を行い、RAによるレチノイル化、PKAによるリン酸化の細胞増殖抑制作用における影響を検討する。また、PKAタンパク質自身をノックダウンして、RAによる細胞の分化誘導・増殖抑制を調べる。このように、(1) 同定した核タンパク質のリン酸化による遺伝子発現調節への影響を詳細に調べ、タンパク質のレチノイル化の生理的意義を解明していく。次に、(2) PKAによりリン酸化される核タンパク質候補がPKAによりリン酸化されているかを確定するため、免疫沈降法、免疫染色法、二次元電気泳動法、質量分析法を用い解析する。さらに、(3) 遺伝子の発現調節に関わるヒストンのレチノイル化を、免疫沈降法、免疫染色法 或いは 質量分析法を駆使して解析する。判明したRA結合部位とアセチル化、リン酸化、メチル化、ユビキチン化部位を比較し、RAの影響を検討し、RA受容体を介さないRAの遺伝子発現調節機構をタンパク質修飾という観点から解明する。最終的には、判明したレチノイル化タンパク質自身、或いは、レチノイル化タンパク質修飾を制御する因子 (レチノイル化関連タンパク質、阻害剤、促進剤) に対し、医薬品としての可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大によって、今年度東京都では、第3回、第4回緊急事態宣言が発令された。そのため当初2021年度に計画していた研究が行えない期間が生じ、実験器具 (ピペット、チップ、チューブ等の消耗品) の調達も難しい状況にあった。また、本研究では核内レチノイル化PKAによりリン酸化される核内タンパク質の同定と新たなレチノイル化タンパク質の同定を行うにあたり、核タンパク質を二次元電気泳動で分離し、SYPROで染色後、ブロッティング、免疫染色を行い、検出したタンパク質に対し質量分析法を用いて解析を行っている。よって、このように本研究では継続的な操作を必要とし、その期間を得ることが非常に難しい状況でもあった。これらの理由から、今年度予定した研究の一部が年度を跨ぐことになり、経費を繰り越すこととなった。
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