トリコスポロン・アサヒは、免疫力が低下した患者に対して重篤な深在性真菌症を引き起こす病原真菌の一つである。しかし、トリコスポロン・アサヒの病原性関連因子の同定とその機能解析は行われていない。その理由として、トリコスポロン・アサヒの病原性を評価するための簡便な感染動物モデルがなく、またトリコスポロン・アサヒの遺伝子組換え技術が確立されていないことが挙げられる。本研究の目的は、環境常在性の病原真菌であるトリコスポロンの感染機構を分子生物学的に解明するための基盤技術の構築である。カイコを用いて簡便にトリコスポロン・アサヒの病原性を評価できる感染実験系の確立に成功した。また、アグロバクテリウムを用いた遺伝子導入法によりトリコスポロン・アサヒにGFPを発現させることに成功した。このアグロバクテリウムを用いた遺伝子導入法を用いて、非相同組換え修復に関与するKu70タンパク質をコードするku70遺伝子の欠損株を樹立した。このku70遺伝子欠損株は、野生株より標的とする遺伝子領域に対する相同組換え効率が上昇していた。次にku70遺伝子欠損株を親株として用い、エレクトロポレーション法とJoint PCR法を組合わせた方法で、大腸菌での遺伝子クローニングを行うことなくトリコスポロン・アサヒの遺伝子欠損株を樹立する方法を開発した。令和5年度において、カルシニューリンをコードする遺伝子を欠損させることによりカイコに対する病原性が低下することを見出した。よって、カイコ感染モデルを用いたトリコスポロン・アサヒの病原性の評価系、およびku70遺伝子欠損株を親株とした迅速簡便な標的遺伝子の欠損株を樹立する技術が構築できた。トリコスポロン属真菌での遺伝子欠損株の樹立は本研究が初めてであり、本技術を用いることでトリコスポロン・アサヒの病原性関連因子の分子遺伝学的解析が可能になった。
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