研究課題/領域番号 |
20K07026
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
大岡 嘉治 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (60303971)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Th9 / レチノイン酸 / リガンド依存的コリプレッサー / NRIP / TGF-β / IL-9 / アリルハイドロカーボン受容体 |
研究実績の概要 |
獲得免疫の司令塔であるヘルパーT細胞のうちTh9細胞は主にIL-9を産生する新規に同定されたヘルパーT細胞サブセットで、気管支喘息等のアレルギー性気道炎症の病態に関与していることや腫瘍免疫への関与が報告されている。我々は、ビタミンAを欠乏させたマウスの解析により、炎症や疾患等が要因となりビタミンAの代謝物であるレチノイン酸の局所濃度が低下すると、Th9細胞等の炎症性ヘルパーT細胞が分化誘導され、気管支喘息や経口免疫寛容破綻等のアレルギー疾患が発症する機構が存在する可能性を想定している。この現象は定常濃度のレチノイン酸がTh9細胞の分化に対し負の制御を行なっていること意味しており、本研究ではその分子機構にリガンド依存的コリプレッサーが関与することを想定し研究を進めた結果、Th9細胞ではリガンド依存的コリプレッサーNRIP遺伝子が特異的に高発現している事を見出した。NRIP遺伝子の発現はTh9細胞と同じくL-4依存的に分化するTh2細胞ではほとんど誘導されないことから、Th9細胞の分化に必要なTGF-βシグナルがNRIP遺伝子の発現制御機構に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、Th9細胞におけるNRIP遺伝子の発現は、レチノイン酸自身に依存していることも明らかになった。NRIPsiRNAのTh9細胞への導入実験によりNRIPの遺伝子発現をノックダウンした結果、レチノイン酸によるIL-9遺伝子発現の抑制は顕著に解除されたことから、NRIPが実際にTh9細胞のIL-9遺伝子の発現制御機構に関与していることが示唆された。また、T細胞リンパ腫細胞株EL-4細胞においても、Th9細胞と同様にレチノイン酸によりNRIP遺伝子発現が誘導されることが判明したことから、EL-4細胞をNRIP遺伝子発現解析のモデル系として利用することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までの研究成果を受けて、リガンド依存的コリプレッサーNRIP遺伝子の発現制御機構の解析を中心に行った。はじめにT細胞リンパ腫細胞株EL-4細胞を用いて、NRIP遺伝子の発現を検討した。その結果、Th9細胞と同様にNRIP遺伝子はEL-4細胞においてもレチノイン酸依存的に発現誘導されレチノイン酸アンタゴニストにより阻害されたとことから。EL-4細胞はNRIP遺伝子の発現制御機構を研究する上で有用なモデル系になることが明らかになった。さらに、NRIP遺伝子の発現制御機構を解析するためNRIP遺伝子のプロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、レポーターベクターを作製した。レポーターベクターを、レチノイン酸受容体RARおよびレチノイドX受容体RXR発現ベクターと共発現させ、レチノイン酸で刺激しレポーターアッセイを行ったが、顕著なレポーター活性の増加は観察されなかったことから、NRIP遺伝子の発現を制御するレチノイン酸応答領域は、今回クローニングした領域には含まれないことが明らかになった。一方、NRIPによるIL-9遺伝子発現抑制機構の解析は、高分子であるNRIPの全長発現ベクター構築が予想以上に難航し、予定通り解析することはできなかった。また、新たな展開として、クローニングしたNRIP遺伝子のプロモーター領域を含むゲノムDNA上の転写因子結合配列を精査した結果、アリルハイドロカーボン受容体AhRの結合配列が複数存在することが明らかになった。そこで、Th9細胞分化条件においてAhRの発現を検討した結果、レチノイン酸シグナルを遮断するレチノイン酸受容体インバースアゴニストBMS493をTh9細胞分化条件に添加すると顕著なAhR遺伝子の発現が誘導されることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に従い、リガンド依存的コリプレッサーNRIPによるIL-9遺伝子発現抑制機構を解明する為、引き続きNRIP発現ベクターの構築を進め、EL-4細胞を用いたレポーターアッセイ系を利用して、遺伝子発現抑制機構の解明を進めるとともに、NRIPと相互作用するTh9細胞分化に関与する転写因子の探索を行うことを計画している。 また、NRIP遺伝子のTh9細胞特異的な発現誘導機構を明らかにするため、Th9細胞分化に必須なTGF-βシグナルの役割を、各種TGF-βシグナル阻害薬を用いて明らかにする。また、今回クローニングしたNRIP遺伝子のプロモーター上流以外のイントロンを含むゲノムDNA上の転写因子結合領域を精査し、TGF-βシグナルの下流で機能する転写因子Smadやレチノイン酸受容体の結合配列の有無を検討する。存在が確認された場合は、ChIPアッセイを利用し、Smadやレチノイン酸受容体のNRIP遺伝子発現制御領域への結合をTh2細胞と比較検討し、NRIP遺伝子のTh9細胞特異的発現に関わるTGF-βシグナルやレチノイン酸シグナルの役割を明らかにすることを計画している。さらに、本課題遂行中に新たに見出したTh9細胞特異的に誘導されるアリルハイドロカーボン受容体AhRの役割にも注目し、AhRのリガンドのNRIP遺伝子発現制御およびTh9細胞の分化への影響も検討し、新たなTh9細胞におけるAhRの役割解明の基礎的データの収集を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定していた実験器具が納期未定になったので、購入をキャンセルしたため。 R3年度に必要なものは購入できたので、R4年度必要物品購入に使用する
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