研究課題/領域番号 |
20K07028
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
米田 宏 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (60431318)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スプライシング / スプライソソーム / CDK9 / 阻害剤 |
研究実績の概要 |
本研究ではスプライソソームに影響する化合物を取得し、それらの化合物を用いて、がんなどの疾患でスプライシング因子に異常が起こり、通常とは異なる状態となっているスプライソソームやそれによって起こる異常なスプライシングが原因となる細胞の脆弱性を攻撃する治療戦略を探求することにある。これまでに得られた化合物のうち、CDK9阻害剤のスプライシングへの影響を精査した結果、低濃度でピークとなる、濃度依存的な効果を示すものが見つかり、さらにその効果がCDK9を標的とするPROTACにより打ち消されることから、化合物とCDK9の複合体が通常とは異なる状態で固定されることにより、新たな機能を生じている可能性が見出された。このような効果を示す化合物を本年度は2つ見出し、それぞれの濃度依存性やCDK9分解時の効果の減弱具合には違いが見られること、化合物の母骨格構造も異なることから、これらは異なるメカニズムでCDK9に作用していると予想できた。このことは、CDK9を化合物で異常なコンフォーメーションに固定することでスプライシングに影響を及ぼすことが可能であること、また、そのメカニズムは複数あることが予想され、今後これらの作用機構をそれぞれのコンフォメーションでのCDK9結合因子の同定により詳細に明らかにすることで、化合物によるスプライシング制御の新たな方策が浮かび上がるものと期待している。つまり、これらが近年提唱されているmoelcular glueとしての働きを示すかはまだ明確ではないが、CDK9に対する新規の結合因子や既存の結合因子の結合性の増強が見られるかが、これらの作用を理解する上での鍵となり、次年度以降の課題と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は上記の実績概要に述べた通り、スプライシングに対する化合物作用の解析から予想していなかったメカニズムの存在が浮かび上がり、当初の計画通りの進展ではないが、研究目的から見ても重要な研究展開を行うことができたと考えている。まだその詳細な機構には迫れていないことから当初計画以上の進展とは言えないが、このまま研究を続けることで、当初の目標を超える成果が得られると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年得られた化合物を処理した際のCDK9の結合因子同定が優先的な課題と考えている。また近年、molecular glueという化合物の作用を考える上で新しい包括的な概念が提唱されており、これまでの活性中心にはまり込んで酵素活性を阻害するような働きばかりではなく、低分子化合物には今回見出しつつあるような、タンパク質のコンフォメーション固定による、本来は生じにくいような異なるタンパク質間相互作用を生み出すことで、細胞内のタンパク質のネットワークを改変し、好ましい作用をもたらす作用があると理解されつつある。ただし、このmolecular glueは狙って取得することが非常に難しく、ほとんどが化合物作用機構の詳細な解析結果から後付けで明らかになっており、こういった化合物のレパートリーを増やすためにも、今回の我々のアプローチは非常に有用であると思われる。今回の阻害剤とPROTACの組み合わせにより、スプライシングという表現型に及ぼす影響の解析は、阻害剤間の作用の違いを明確にする解析手法であり、こちらもさらに推し進めることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により研究の進展が最初の半年はかなり遅く、実験試薬の購入のペースも例年よりゆっくりであったため。
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