研究課題/領域番号 |
20K07029
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小川 英知 大阪大学, 生命機能研究科, 特任准教授(常勤) (20370132)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺伝子導入 / ウイルス感染 / オートファジー |
研究実績の概要 |
細胞自身がもつ防御機構として,細胞は細胞外からの様々な異物侵入を検知し、それらを排除するために選択的オートファジー機構を使用する。この選択的オートファジー機構は、外来異物だけでなく核酸の導入に対しても同様に働くため,特に基礎研究や医療の場では, 核酸導入が必要な場面で大きな障害となる。我々はオートファジーレセプターp62に着目し、p62の欠損が核酸導入効率の促進を示すこと,その原因が細胞質に侵入した核酸周辺のUb化の遅延であることを突き止めている。本研究ではp62の機能を低分子化合物を用いて阻害することで,効果的な遺伝子導入促進剤の開発を試みた。はじめに低分子化合物ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニングの実験系を確立するために,遺伝子導入効率を定量化するためのルシフェラーゼベクターの選定,およびその活性測定を行った。恒常的に活性化するプロモーターを複数準備して,遺伝子導入効率の指標であるルシフェラーゼの活性が低いバックグラウンド下で充分に検出可能な活性を示すものを選定したところ,CMVのプロモーターがもっとも検出感度が高かった。さらに遺伝子導入後から測定時間までの培養時間を調べたところ,培養時間に比例して48時間までは活性が上昇したため,24時間から48時間程度を培養時間の適正だと判断した。24wellプレートから384well プレートまでスケールダウンするために,培養液が交換できないこと,粘性の高い液体は使用できないことなどを考慮して細胞にダメージが少ないプロトコールを作製した。実際にこのプロトコールを用いて低分子化合物ライブラリーをスクリーニングしたところ約4000化合物から100種類弱の陽性化合物を得ることができた。今後これらのスクリーニングを更に進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大阪大学薬学研究科附属化合物ライブラリー・スクリーニングセンターの協力を得られたため,ハイスループットスクリーニングの機器の準備が非常に効果的に進められた。ハイスループットスクリーニングの実験プロトコールも,これらの設備にあわせることで時間の短縮が可能であり,より多くの低分子化合物ライブラリーを試すことができると考えられる。これまでに4000化合物のスクリーニングを行い5%程度の陽性化合物を同定できた。今後これらの化合物の再現性とともに,それらの類似化合物についても同様の活性を持つかを検討をすすめる。またp62KO MEF細胞を用いたこれらの化合物の評価を行った結果,選定された化合物の殆どがp62依存的であることも明らかとなった。すなわち,低分子化合物によって遺伝子導入効率の促進効果を誘導する経路においてp62は最も主要な因子であり,p62依存性をもつ因子,またはp62の制御化合物を平行して検討することで,確実に効果のある薬剤を同定できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
効果的なハイスループットスクリーニングの実験系の確立ができスクリーニングが始められたため,今後もハイスループットスクリーニングを進めていく。ライブラリーのスクリーニングを進めていくことで今後も数パーセントの割合で陽性がでてくると考えられるので,p62依存性を検討するとともに,細胞の毒性や広汎な細胞種に使用できるかどうかの検討も行う予定である。 現在p62複合体の精製が進められており,p62の翻訳後修飾を標的とした化合物の検討のみならず,これらの複合体の構成因子を標的とした化合物の遺伝子導入効率の促進効果についても検討を行っていく。このような幾つかの経路からアプローチすることで,本年度は新規の遺伝子導入促進剤の同定とそれらの特許申請に繋げていけると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で,予定していた共同研究に使用する消耗品の減額と,計画していた出張がすべてリモートに変更になったため,計上していた金額が変更になった。
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