研究課題/領域番号 |
20K07031
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大黒 亜美 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 助教 (20634497)
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研究分担者 |
山崎 岳 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 教授 (30192397)
石原 康宏 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 准教授 (80435073)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薬物代謝酵素 / チトクロームP450 / 可溶性エポキシド加水分解酵素 / ドコサヘキサエン酸 / DHAジオール / パーキンソン病 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
エポキシド加水分解酵素(sEH)は薬物代謝酵素であるが、生体内の長鎖不飽和脂肪酸の代謝に関与し、その生理活性を制御する役割を担っている。本研究ではsEHによるドコサヘキサエン酸(DHA)代謝物の脳への機能について検討した。DHAはチトクロームP450によりDHAエポキシドに変換された後、sEHによってDHAジオール体へと代謝される。DHAの摂取は、パーキンソン病などの神経変性疾患患者の症状軽減に有効であることが明らかとなっているが、その作用機序は十分には明らかとなっていない。 本研究では、7週齢SDラットを用いてDHAを摂取させた後に、ロテノンを投与することによりパーキンソン病様症状を誘発した。DHA摂取により、ロテノン投与によるラットの運動機能低下や線条体におけるTH発現低下が軽減されたが、これらのDHA摂取効果はsEHの阻害剤を共に摂取させることで抑制されることが示された。またDHA摂取により線条体の抗酸化因子の発現が増加し、ロテノンにより生じた酸化ストレスを抑制したが、この効果もまたsEH阻害剤により抑制された。そこで、脳内のDHA及びその代謝物を測定したところ、DHA及びDHAエポキシドの量はDHA摂取により変化しないのに対し、DHAジオール体が増加していることが明らかとなった。神経細胞を用いた実験において、DHAジオール体は抗酸化因子の発現を増加させることが示された。 本研究によりパーキンソン病におけるDHA摂取効果には、P450及びsEH代謝物であるDHAジオール体の作用が重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではsEHの二つの活性(エポキシド加水分解活性及び脱リン酸化活性)による脂質代謝を介した脳機能への作用解析を目的としており、現在までにエポキシド加水分解活性のDHA代謝物を介した脳への作用を明らかにすることができた。また脳内のDHA代謝物を感度よく定量することに成功した。現在は、sEHの脱リン酸化活性にも着目して、リゾリン脂質代謝による脳への作用解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにin vitroの実験において、sEHの脱リン酸化活性はリゾホスファチジン酸を代謝することを見出したが、生体内におけるsEHの脱リン酸化活性の意義は不明である。そこで、sEHの二つの活性のうち、脱リン酸化活性のみを消失させたマウスを作成する。このマウスの脳内のリゾホスファチジン酸やsEHによる代謝物であるモノアシルグリセロールを定量する。これに加えて他の脂質変動の網羅的解析や遺伝子発現変化を解析することで、その機能解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の新型コロナウイルス蔓延防止対策により、動物の購入や共通機器の使用に制限がかかった時期があり、実験計画が若干後ろ倒しとなったため。これらの差額分を含めた翌年度分の助成金は、sEHの脱リン酸化活性の欠損マウスの作成、維持、解析に係る費用に充てる予定である。
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