研究課題/領域番号 |
20K07033
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
松永 俊之 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (80306274)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アルドケト還元酵素 / 薬剤耐性 / 乳がん / 前立腺がん |
研究実績の概要 |
乳がんMCF7細胞を抗エストロゲン剤タモキシフェンや抗がん剤 (5-フルオロウラシル、シスプラチンとパクリタキセル) 、3種の前立腺がん細胞 (LNCaP、PC3とDu145) を抗アンドロゲン薬フルタミドを含む増殖培地で継続的に培養することによってそれぞれの薬剤に対する耐性細胞の樹立に成功した。本研究において樹立できた耐性細胞のうち、タモキシフェン、シスプラチンやパクリタキセルに耐性獲得したMCF7細胞の耐性化に伴うアルドケト還元酵素 (AKR) 1Cサブファミリーに属する3種のアイソフォーム (AKR1C1、AKR1C2とAKR1C3 ) の発現変動をPCR法とウエスタンブロット法にて調査した結果、3種の耐性細胞はいずれも非耐性MCF7細胞と比較してAKR1C3が高発現していた。また、AKR1C3阻害剤は他のアイソフォーム阻害剤よりも著明に薬剤毒性に対する感受性を高め、その薬剤感受性はAKR1C3過剰発現によって低減し、AKR1C3のノックダウンによって増大した。さらに、薬剤耐性細胞では転写因子Nrf2の恒常的な核移行が認められたことから、AKR1C3はNrf2の恒常的活性化によって発現上昇し、これら3種の薬剤に対する耐性獲得において主要な役割を果たすことが示唆された。 AKR1C3のリコンビナント酵素を調製して上記3種の薬剤の代謝能を調査したが、AKR1C3はこれら薬剤をほとんど代謝しなかった。また、これら薬剤処理時には脂質過酸化副産物である強毒性アルデヒド体の生成が亢進するが、その生成は耐性細胞では認められなかったことから、AKR1C3による薬剤耐性獲得は、薬剤の代謝ではなく、薬剤処理時に生成する強毒性アルデヒド体の解毒に起因すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定していた一部のホルモン療法剤 (アロマターゼ阻害剤と黄体ホルモン剤) では耐性細胞を調製することができなかったが、それ以外の多くの薬剤に対して耐性獲得した乳がん細胞や前立腺がん細胞を調製することができた。また、いくつかの耐性細胞を用いてAKRアイソフォームの発現変動や耐性化に関わる主要酵素の同定についても既に終了しているため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度には調製した薬剤耐性細胞を用いて、AKR1C3の発現調節機構において中心的な役割を担うNrf2活性化機序 (Keap1変異や転写共役因子の同定) を調査する予定である。また、発現上昇したAKR1C3の意義を明示にするために、薬剤処理時に細胞内で増加するカルボニル化合物(脂質由来アルデヒドやケトン体など)を探索する。さらに、薬剤の細胞外への排泄に関わるABCトランスポーター (ABCB1やABCC1など) やホルモン受容体の耐性化に伴う発現変動を精査し、可能ならばその発現変動機序や薬剤排泄能の変動等についても調査するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していたNrf2活性化機序の解明が実施できなかったため、その実験において使用する培養細胞関連消耗品と検出試薬が残額として生じた。 令和3年度にその研究を遂行する予定である。
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