本年度はヒトiPS細胞から分化誘導した腸管オルガノイドが消化管障害の評価モデルとして利用可能かどうか探るため研究を進めた。まず、三次元構造体の腸管オルガノイドをセルカルチャーインサート上に播種し、二次元的に培養したまま陰窩絨毛様構造を有した状態で培養した。これに消化管障害を引き起こすことが知られている化合物を処理すると、顕微鏡観察下で形態学的に細胞への障害が認められた。また、細胞間隙経路を透過するマーカー化合物であるルシファーイエローの見かけの膜透過係数の上昇や、さまざまな腸管細胞関連の遺伝子発現の低下も認められた。これらのことから、ヒトiPS細胞由来の二次元化腸管オルガノイドは化合物や医薬品による消化管障害を評価可能なモデル系となり得ることが示唆された。また、免疫が関与する消化管障害の評価モデルとしての利用の可能性を探るための研究も行った。免疫系の細胞としては血球系の細胞株を使用した。まずはこの細胞株をリポポリサッカライドやインターフェロン-γで処理することで炎症関連のマーカー遺伝子の発現上昇や炎症性サイトカインの産生が上昇することを確認した。その後、この細胞とヒトiPS細胞由来の二次元化腸管オルガノイドを共培養し、リポポリサッカライドやインターフェロン-γで処理した。しかしながら消化管のバリア機能の指標となる経上皮電気抵抗値に有意な変化は認められなかったことから、免疫が関連する評価モデルとしての利用に向けては条件の最適化などの検討が今後さらに必要であると考えられた。また、ヒトiPS細胞から腸管上皮細胞への分化誘導に関してはこれまでの腸管上皮細胞よりも高機能な細胞の作製に成功した。
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