研究課題
上衣腫は脳室の壁を構成する上衣細胞の腫瘍である。大脳に形成される約2/3の上衣腫では、機能未知遺伝子 ZFTAと、炎症反応に関与するNF-kB経路の主要なエフェクター転写因子RELAの遺伝子が隣りあい、融合タンパク質(ZFTA-RELA)として発現する。 ZFTA-RELA は恒常的にNF-kB 経路を活性化して上衣腫を発症・増殖させるが、その詳細な分子機構は不明であり、治療標的も探索されていない。本申請課題では、1)上衣腫形成の分子機構理解と、2)C11orf95-RelAの機能・発現阻害に向けた創薬標的部位の探索によって、革新的上衣腫治療法開発に資することを目指している。本年度は、目標1)に関して、ZFTAのノックアウトマウスの表現型解析を行い、ZFTAを欠損してもマウスの発生や生殖、上衣細胞の分化に異常は生じないことを見出した。この結果は、新規上衣腫治療法の開発において、ZFTA-RELAのZFTA部分の機能を阻害したとしても、正常なZFTAをも阻害することによって有害な作用が起きにくいことを示唆する。さらに、ZFTA-RELAの発現機序として、上衣細胞の分化を促進する転写因子が発現を開始し、ZFTA-RELAが正のフィードバックによって自身の発現を促進するモデルを提唱した(Herranz-Perez et al., 2022)。目標2)に向けて、ZFTA-RELAの発現によるNF-kB経路の活性化を定量的にモニターできるアッセイ系を確立した。本学薬学部生薬化学研究室これを市瀬教授、石川助教及び千葉大学矢口准教授との共同研究によって、各種真菌抽出液を評価したところ、epi-aszonalenin BがNF-kB経路の活性化を阻害することを見出した(Ishikawa et al., 2022)。
2: おおむね順調に進展している
ZFTAノックアウトマウスの表現型解析を終えると共に、ZFTA-RELAの発現制御機構を解明することができた。さらに、ZFTA-RELAの発現による発がん性NF-kB経路の活性化を阻害する物質としてepi-aszonalenin Bを見出すことができた。これらの研究成果として、査読付き欧文誌に論文を2報掲載するとともに、国際学会発表を1件、国内学会発表を4件行うことができた。
ZFTA-RELAの恒常的な核移行はNF-kB経路の活性化とそれに引き続く上衣腫発症につながる。当研究室ではすでにZFTA-RELAの核輸送担体を同定し、共結晶構造解析をおこなっている。今後は生化学的解析により結晶構造解析の結果を補強することを目指す。当研究室で確立したZFTA-RELAの発現によるNF-kB経路の活性を測定するアッセイ系(Ishikawa et al., 2022)を用いて、東京大学創薬機構所有の化合物ライブラリーから約30,000化合物をスクリーニングし、50%阻害率が数十から百数十uM程度の化合物を3つ得ている。これらの化合物の作用機序を解明することを目指す。
COVID-19による大学の閉鎖により研究活動を行えない期間が半年弱あったために予算執行に遅れが生じた。外部研究委託を積極的に活用することなどにより予算執行の遅れを取り戻すとともに、研究活動を加速させる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 596 ページ: 104~110
10.1016/j.bbrc.2022.01.076
Scientific Reports
巻: 12 ページ: 1493
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Research Square (preprint server)
巻: NA ページ: NA
10.21203/rs.3.rs-948030/v1