がんの罹患者数、死亡者数は世界的にも増加傾向にあり、発がん、がん悪性化の新たな機構の解明とそれを元にした治療方法、治療薬の開発が必要とされている。 肝化学発がん初期に発現上昇するヒストン修飾酵素をこれまでに複数単離しており、それらががん化に与える影響を解析している。ヒストン修飾酵素は核に収納されている遺伝子の発現制御に関わり、その発現、活性、機能の異常はがんを含む様々な疾患に関与する。ヒストン修飾酵素阻害物質の一部は抗がん剤として上市されており、ヒストン修飾酵素は新たな分子標的として注目されていることから、その阻害剤の有用な使用法の開発が求められている。 上記酵素の中で、アルギニン残基メチル化酵素CARM1およびリシン残基メチル化酵素PR-SET7を中心として、それらの酵素活性阻害剤が肝がん由来細胞、浸潤・転移に関わるメラノーマ由来細胞に与える影響を検討した。また、肝がん治療に用いられるソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブなどのキナーゼ阻害薬とCARM1阻害剤の併用効果をヒト肝がん由来細胞株を用いて検討した。そして、CARM1阻害剤は一部のキナーゼ阻害薬のがん細胞増殖阻害効果を促進させた。この効果はメラノーマ由来細胞においても観察された。PR-SET7阻害剤も肝がん由来細胞において、分子標的薬の効果を促進した。がん細胞増殖阻害効果を示す濃度のCARM1阻害剤はヒストンタンパク質よりも一部の非ヒストンタンパク質のメチル化を効果的に阻害した。また、この増殖阻害過程で、細胞死経路のひとつであるアポトーシスに必要な酵素であるカスパーゼの活性化も観察された。これらの解析から、CARM1阻害剤は一部のキナーゼ阻害薬のがん細胞増殖抑制作用において、アポトーシス経路を活性化することなどにより効果を促進すると考えられた。
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