研究課題
本研究課題では「鉄過剰は血球前駆細胞の障害の原因となる」ことを仮説として、その検証および発生機序を解明すると共に、鉄剤過剰使用による造血不全の発生リスクを評価する。妊娠中は胎児への鉄の供給が発生するため、鉄欠乏性貧血の発生率が高い。このため妊娠中は鉄剤が処方される頻度が高いが、過剰の鉄剤摂取が生体にどのような影響を及ぼすのかは明らかになっていない。また鉄欠乏性貧血の特徴の一つとして血小板過多が知られているが、血小板の発生源である巨核球は赤芽球と分化過程が途中まで同じ経路を進み、最後に分枝することが明らかになっている。我々はこれまでの研究で、血球細胞の分化過程初期に全ての前駆細胞で一過性のトラスフェリンレセプターの発現を確認しており、そのリガンドとなる鉄の過剰供給はシグナル過多をもたらすと考えている。よって赤芽球のみならず全ての血液前駆細胞が過剰シグナルの影響を受け、これが正常な分化を妨げる原因となる可能性がある。赤血球の産生不全では貧血、顆粒球の産生不全では感染に対する防御能の低下、巨核球の産生不全では血小板数減少が発生することが想定される。妊娠中の鉄剤使用期間とこれらの異常発生との関連性がみられないか、妊婦を対象としたアンケート調査結果と血液検査結果を付き合わせて統計学的な検討を行ったところ、調査対象期間を通して鉄剤を使用していた妊婦の割合は低かったものの、この群では他の群と比較して血小板数が低いことが見出された。このことは鉄剤の長期使用が血球細胞産生過程で巨核球の分化成熟に障害をもたらす可能性を示唆しており、鉄過剰摂取モデルマウスの骨髄から単離した血球前駆細胞を対象に検証することを計画している。
3: やや遅れている
本研究課題では「鉄過剰は血球前駆細胞の障害の原因となる」ことを仮説として、その検証および発生機序の解明、および妊産婦における鉄剤過剰使用による造血不全の発生リスクの評価の二方向から取り組む計画である。妊娠中の鉄剤使用期間と血中での血球細胞の異常発生との関連性の有無を調べることは、実験研究の遂行における有用情報となるため、妊婦を対象としたアンケート調査結果と血液検査結果を付き合わせて統計学的な検討を行った。同時にFACSを用いた骨髄前駆細胞の解析や分画、さらにin vitroでの分化誘導の検討を行なっている。本年度は昨年度来のピペットなどの実験消耗品の入手が困難な状況が続き、計画の遂行には遅延が発生した。
妊婦を対象としたアンケート-血液データの解析結果を踏まえて、特に巨核球の分化成熟に注目しながら、各種血球前駆細胞がその分化過程で鉄過剰の環境に晒されることによってどのような影響を受けるのか、マウスの血球前駆細胞を対象に解析する。血球前駆細胞の各系統への分化過程とCD71発現変動の連動性の評価、およびpulse-chase assayによる分化細胞の追跡を今後進める予定である。
当該年度に予定していた実験の一部が、物品入荷の遅れなどが原因で次年度の予定に組み込まれることになった。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Cell Rep.
巻: 34 ページ: 108912
10.1016/j.celrep.2021.108912