研究課題
本研究課題では「鉄過剰は血球前駆細胞の障害の原因となる」ことを仮説として、その検証および発生機序を解明すると共に、鉄剤過剰使用による造血不全の発生リスクを評価する。妊娠中は胎児への鉄の供給が発生するため、鉄欠乏性貧血の発生率が高い。このため妊娠中は鉄剤が処方される頻度が高いが、過剰の鉄剤摂取が生体にどのような影響を及ぼすのかは明らかになっていない。また鉄欠乏性貧血の特徴の一つとして血小板過多が知られているが、血小板の発生源である巨核球は赤芽球と分化過程が途中まで同じ経路を進み、最後に分枝することが明らかになっている。我々は過去の研究で、血球細胞の分化過程初期に全ての前駆細胞で一過性のトラスフェリンレセプターの発現を確認しており、そのリガンドとなる鉄の過剰供給はシグナル過多をもたらし、全ての血液前駆細胞の正常な分化が妨げられる可能性があると考えた。アンケート調査より、妊婦は鉄剤処方される割合が42%と非常に高いことが明らかとなり、鉄過剰の健康リスクが懸念された。そこで妊娠中の鉄剤使用期間とこれらの異常発生との関連性がみられないか、血液検査結果を合わせて統計学的な検討を行ったところ、予想外に処方された鉄剤を使用した妊婦がわずか4%しかいないことが判明した。長期鉄剤使用群は他の群と比較して血小板数が低い傾向にあり、しかも貧血は改善傾向が認められないことがわかった。このことは鉄剤の長期使用による巨核球の分化成熟障害とともに、鉄供給不足以外が原因で貧血が継続している集団が一定数存在する可能性を示唆する。ただし長期使用群に分類された妊婦は0.2%未満とわずかで、まずは処方箋通りに服用されていないことを医師が把握できていないことへの警鐘を鳴らす必要があると考え、現在論文投稿準備中である。
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Genes Cells
巻: - ページ: 42-52
10.1111/gtc.12995