神経系において、神経細胞間の情報伝達はシナプスを介して行われる。シナプス前部のアクティブゾーンからは、神経伝達物質が電位依存性カルシウムチャネルCav2の活性化を契機に放出される。Cav2の正確な局在は神経伝達において不可欠だが、その局在機構については未解明な点が多い。代表者らは、遺伝学的解析に長けた無脊椎動物である線虫C. elegansを用いて、アクティブゾーンのアダプター分子RIMB-1/RBPとUNC-10/RIMがCav2の局在制御に重要であることを示してきた。本研究課題ではCav2局在制御に関して、アダプター分子の作用機序とともに新たな関連分子群を同定することを主な目的とした。今年度、順遺伝学的探索によって同定された糖鎖修飾調節関連酵素について、その抑制酵素などの関連分子の表現型解析によってCav2局在制御における作用機序のさらなる検討を進めた。さらにCav2局在制御の新たな生理的役割として、個体老化制御との関連が示唆されつつある。代表者らは、特定のアクティブゾーンアダプター分子が個体老化制御に関わることを見出し、それらのCav2局在への寄与と老化制御との相関性について解析した。研究期間全体を通じた主要な成果として、Cav2局在制御機構に関して、アダプター分子の関与に加えて新たにペプチド切断酵素や糖鎖修飾調節関連酵素の重要性を明らかにした。Cav2は家族性の片麻痺性片頭痛や反復発作性運動失調症などの疾患の原因分子として知られ、またCav2制御分子は自閉症や小児認知機能障害など様々な精神神経疾患に深く関与する。本研究のCav2の局在制御機構に関する新たな知見は、ヒト関連疾患の分子基盤の理解や治療薬の開発に大きく貢献することが期待される。
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