本研究の主目的であった質量分析イメージング技術を用いた「局所」リゾリン脂質の機能解明に取り組み、精細管内腔に局在するパルミチン酸型リゾリン脂質を明らかにした。さらにこの知見から、この脂質の機能解析を行い、パルミチン酸型リゾホスファチジン酸(LPA)がLPA2受容体シグナル依存的に精細胞のアポトーシスを抑制する可能性を見出した。この機能は特に虚血精巣において重要であり、虚血時にパルミチン酸型リゾリン脂質が精細管内腔で増加していることをMSイメージングとLC-MSを組み合わせて明らかにした(論文投稿準備中)。また、リゾリン脂質をより高感度にイメージングする技術開発にも取り組み、LPAやスフィンゴ1リン酸を可視化する新たな技術(Phos-tag誘導体化)を開発し、論文報告した。また、質量分析イメージングを応用し、リン脂質の代謝に関わる酵素活性を組織切片上で可視化する技術開発も行なった(論文投稿準備中)。 また、研究期間全体を通じて、研究代表者がこれまで開発してきたリン脂質を標的とした質量分析イメージング技術を用い、様々な共同研究を展開した。前年度までに論文報告した糖尿病性腎症におけるリゾホスファチジルコリンの蓄積に加え、ゴーシェ病モデルマウスの脳におけるヘキソシルセラミドの特異的な蓄積を可視化(大阪大・山崎晶先生との共同)、放射線障害モデルマウスの脳におけるリゾリン脂質の蓄積、(京大・近藤夏子先生との共同研究)をそれぞれ明らかにし、論文報告を行なった。さらに、標的分子をリン脂質に留まらず、隕石切片上の有機化合物の可視化(東北大・古川善博先生との共同)し、論文報告を行なった。
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