研究実績の概要 |
ほ乳類の大脳皮質には、機能が類似した神経細胞からなる層構造がある。この層構造は、神経細胞が厳密に制御された「移動」を行った結果、形成されるものであり、その破綻は統合失調症、読字障害などのリスクや原因と考えられている。巨大分泌タンパク質リーリンは、脳の形成に必須の役割を持つことがわかっている。しかし、個々の細胞に対する具体的な機能はほとんどわかっていない。本研究では、これまでに申請者が見出した浅層特異的なリーリンの機能に焦点をあて、時空間的なリーリンの作用機序、およびその意義を明らかにする。 本年度は、申請者がこれまでに行ってきた新規リーリン結合分子Neuropilin-1の脳における機能について解析を進め、データをまとめ、J. Neurosci誌に発表した。本論文において、1) リーリンとNeuropilin-1との結合は、リーリンのC末端領域内の切断により制御されること、2) Neuropilin-1と既知リーリン受容体VLDLRが大脳皮質浅層に共発現すること、3) Neuropilin-1はリーリンとVLDLRとの結合を増強し、共受容体として機能すること、4) 大脳皮質の浅層神経細胞においてリーリン-Nrp1結合が正常な樹状突起発達に必要であること、を明らかにした。以上から、Neuropilin-1を介したリーリンの新たな作用メカニズムが、浅層神経細胞の正常な樹状突起発達を制御することが示唆された(Kohno et al., J. Neurosci.,40. 8248-8261, (2020))。
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