本研究では、エストロゲン受容体(ER)α機能のリン酸化による制御と肥満や神経変性発症との関連性を明らかにすることを目的に検討を進めてきた。ERαのDNA結合ドメイン中216番目セリンがリン酸化されるとリガンド非依存的に活性は保持されていることを以前から見出しており、このPKCリン酸化モチーフは、多くの核内受容体の中で保存されている。定常状態ではセリン216のリン酸化ERαがマウス脳ミクログリアで発現していた。本研究では主に、セリン216をアラニンに置換した非リン酸化ERα発現マウス (Esr1S216A)を用いて、野生型(WT)マウスと比較した実験系を遂行した。神経変性の検討のための行動薬理実験であるロータロッド試験では、Esr1S216Aマウスの落下時間は有意に短くなり、神経変性症状が若年期から認められる結果となった。また、神経変性症状と関係の深いミクログリアの活性化について、脳組織やグリア混合細胞、脳スライス培養を用いてLPS炎症誘発時の炎症応答変化について検討を行ったが、いずれの実験系においてもEsr1S216Aマウスでは、炎症型ミクログリア(M1)活性化が長時間持続するしている可能性が示唆された。そのため、Esr1S216Aマウスでは、慢性炎症状態が持続することにより、神経変性症状が若年期から進むと考えられた。肥満検討においては、Esr1S216Aマウスの体重増加の傾向は認められたが、有意な結果ではなかった。加齢に伴い脂肪の蓄積よりも筋肉質感があり、その結果体重増加傾向につながっている可能性が見出され、Esr1S216Aマウスの新たな表現型と考えられた。これらの結果より、セリン216のリン酸化ERαは、ミクログリア活性の制御に関わり、炎症応答においても炎症型から抗炎症型ミクログリア(M2)活性化の極性変化に寄与する可能性が示唆された。
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