研究課題/領域番号 |
20K07054
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山田 剛 帝京大学, 付置研究所, 准教授 (80424331)
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研究分担者 |
鈴木 章一 帝京大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (40253695)
矢口 貴志 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (60361440)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 皮膚糸状菌 / 皮膚真菌症 / プロテアーゼ / 生体防御回避 |
研究実績の概要 |
白癬の原因菌である皮膚糸状菌(以下、白癬菌)が表皮角質層に侵入・増殖し、病態を形成するメカニズムに、本菌が産生する多様なプロテアーゼが密接に関与しているものと想像される。特に、細胞外に分泌されるプロテアーゼや細胞表面に局在するプロテアーゼの中には、角質層の効率的な分解と内部への侵入に深く関与しているものがあると考えられる。ところが、このようなプロテアーゼの中で角質層の効率的な分解と内部への侵入プロセスと関連があることが証明または示唆されたものは少なく、「白癬の病態形成メカニズムにおける菌由来の分泌型プロテアーゼの役割とは?」という問いに対する明確な答えは今なお得られていない。一方、我々は白癬菌の菌糸から調製した細胞抽出液が表皮ケラチノサイトに与える影響を解析し、「白癬菌由来のプロテアーゼが宿主の生体防御機構を制御(抑制)するサプレッサーのような働きをすることにより、角質層内での菌の持続的な発育を維持しているのではないか?”」という仮説を導き出した。白癬菌由来プロテアーゼに関する上記2つの疑問・仮説に対する知見を得るべく、研究を進めている。 令和2、3年度を通じて、in vivo(動物感染モデル)とRNAseqを組み合わせた解析の結果、高レベルの発現が確認(報告)された白癬菌由来の10個の分泌型プロテアーゼの遺伝子を1から全て欠損させた変異株で構成されるライブラリーを構築した。そして、本欠損株ライブラリーを構成する各変異株のin vitroにおける表現型解析を計画していた。また、「白癬菌由来プロテアーゼによる宿主の免疫応答回避機能の可能性」に関する知見を得るために、白癬菌の菌糸から調製した細胞抽出液による表皮ケラチノサイト(培養細胞)の細胞死の様式を検証するための種々の解析を計画していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究実績の概要で述べたように、本研究では、1. 白癬の病態形成メカニズムにおける白癬菌由来の分泌型プロテアーゼの役割に関する新たな知見を得る 2. 角質層内における白癬菌の持続的な発育維持のための菌由来プロテアーゼを介した宿主の生体防御機構の制御(抑制)の仕組み(プロテアーゼによる宿主の免疫応答回避機能)の可能性に関する知見を得る、以上2つの目標を掲げ、菌が産生するプロテアーゼの解析を進めている。初年度(令和2年度)、白癬の病態形成メカニズムにおける菌由来の分泌型プロテアーゼの役割の解明に向けた研究を推進するために「in vivo(動物感染モデル)とRNAseqを組み合わせた解析の結果、高レベルの遺伝子発現が確認(報告)された10個の分泌型プロテアーゼに着目し、それらの分子をコードする遺伝子を1から全て欠損させた白癬菌の変異株で構成されるライブラリーの構築」を完了した。令和3年度は、本ライブラリーを構成するプロテアーゼ欠損株を用いて、 ①発育形態 ②総プロテアーゼ活性 ③欠損させたプロテアーゼと関連のある他の遺伝子〔in vitroで高発現するプロテアーゼ遺伝子、プロテアーゼの産生制御に関わる転写因子など〕の発現量に対する影響 などの比較解析を進める予定であった。しかしながら、長引く新型コロナウイルス感染症の問題により解析を推進することができなかった。 一方、白癬菌由来プロテアーゼによる宿主の免疫応答回避機能の可能性に関する知見を得るために令和2、3年度に計画していた「白癬菌の菌糸から調製した細胞抽出液による表皮ケラチノサイト(培養細胞)の細胞死の様式(ネクロシスまたはアポトーシス)を検証するための種々の解析(プロテアーゼ阻害剤カクテルを用いた解析、ELIZA法を用いた解析)」についても、新型コロナウイルス感染症の問題により実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
3年目となる令和4年度は、「白癬の病態形成メカニズムにおける菌由来の分泌型プロテアーゼの役割の解明」に重点を置いた解析を進めて行く。令和3年度に計画していた「10個の分泌型プロテアーゼをコードする遺伝子を多様に欠損させた遺伝子欠損株ライブラリーを用いて、①発育形態 ②総プロテアーゼ活性 ③欠損させたプロテアーゼと関連のある他の遺伝子〔in vitroで高発現するプロテアーゼ遺伝子、プロテアーゼの産生制御に関わる転写因子など〕の発現量に対する影響など」の比較解析を進めていく。これらの解析に続いて、動物感染モデルを用いたin vivoの実験に移行し、病態の経時変化を比較解析する。 一方、「白癬菌由来プロテアーゼによる宿主の免疫応答回避機能の可能性」に関する知見を得るための入り口として、令和2年度に計画していた「白癬菌の菌糸から調製した細胞抽出液による表皮ケラチノサイト(培養細胞)の細胞死の様式(ネクロシスまたはアポトーシス)を検証するための種々の解析(プロテアーゼ阻害剤カクテルを用いた解析、ELIZA法を用いた解析)」を実施し、得られた解析結果に基づいて「表皮ケラチノサイトに誘導される細胞死の様式の解明、ならびに細胞死を誘導する分子(リガンド)及び細胞死を抑制する菌由来のプロテアーゼの解明」を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究には、1. 白癬の病態形成メカニズムにおける白癬菌由来の分泌型プロテアーゼの役割に関する新たな知見を得る 2. 角質層内における白癬菌の持続的な発育維持のための菌由来プロテアーゼを介した宿主の生体防御機構の制御(抑制)の仕組み(プロテアーゼによる宿主の免疫応答回避機能)に関する知見を得る、以上2つの最終目標がある。目標1を達成するために、令和2年度に計画していた「in vivo(動物感染モデル)において高レベルの遺伝子発現が確認(報告)されている10個の分泌型プロテアーゼをコードする遺伝子を1個から全て欠損させた白癬菌の変異株で構成されるライブラリーの構築」は予定通り完了した。令和3年度は、本ライブラリーを構成するプロテアーゼ欠損株のin vitroにおける表現型解析を実施する予定であった。しかしながら、長引く新型コロナウイルス感染症の問題のため、解析を行うことができなかった。また、目標2の達成に計画していた解析についても、新型コロナウイルス感染症の問題のため、令和3年度中に実施することができず、関連する予算の使用に至らなかった。3年目となる令和4年度は、目標1の達成に重点を置いた解析を計画しており、次年度使用となった予算を使用する予定である。
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