本申請では、わが国における難治性疾患である炎症性腸疾患(IBD)を取り上げ、特に潰瘍性大腸炎(UC)について調査している。 まず、加齢と共に変化する代謝機能がUCの発症に関与する可能性を検討した。検証する標的分子として、消化管の亜鉛要求酵素であるintestinal alkaline phosphatase(IAP)に注目した。加齢と共に消化管組織の亜鉛レベルが低下しIAP活性も低下するなら、上皮細胞の新陳代謝から細胞外に漏出したATPや、腸内細菌から放出されたLPSがIAPによる分解を回避して管腔内を移動し、大腸に集積すると想定される。ATPやLPSは細胞膜上の受容体を介して作用する炎症惹起物質であり、大腸管腔内に蓄積すれば大腸上皮細胞に炎症が発生する。 方法として、9、40及び72週令のC57black/6Jマウスを用いて検証した。1週間の馴化後に2%のDSS水を1週間自由摂取させてUCの実験モデル動物を作成した。また、今回の概念に基づいてUCを治療する新規化合物として、経口投与後の効率的な大腸送達性を考慮した分子量40万のポリγグルタミン酸-亜鉛錯体(γPGA-亜鉛錯体)を合成し、化学構造を同定した。 結果の概略は以下である。無処置群と比較してUC群の大腸上皮の炎症は、9週令で顕著、40週令で軽微、72週令は不変で、加齢と共に元来から炎症が相当度みられた。血漿中ALP活性は、UC群の9-40週令で顕著に低下、72週令で軽微に低下したが、一方で大腸IAP活性は、UC群の9-40週令で軽微に上昇、72週令で顕著に上昇し、これは活性化した好中球が大腸の炎症組織内へ浸潤した所以であること確認した。大腸組織の亜鉛含量が加齢により低下し、UC発症により更に消耗される事実から、UCモデルマウスにγPGA-亜鉛錯体を連日経口投与したところ、UCを顕著に治癒できることを見出した。
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