研究課題/領域番号 |
20K07057
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研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
栗生 俊彦 大阪医科薬科大学, 研究支援センター, 特別職務担当教員(講師) (10401374)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電気生理 / シナプス / 統合失調症 / iPS細胞 / 神経細胞 / 分子イメージング |
研究実績の概要 |
2020年度に引き続いて、「疾患iPS分化神経細胞の電気生理学的手法を用いた解析」と「分子イメージング法を用いた統合失調症関連分子の動態解析」について、それぞれ研究を進めた。 電気生理学的手法を用いた解析では、統合失調症多発家系患者から得られた疾患iPS分化神経細胞のシナプス後電流の測定を行った。疾患iPS分化神経細胞では、健常者から得られたiPS分化神経細胞と比較して、シナプス後電流(mEPSC)の振幅が小さく、頻度が上昇していることが明らかとなった。また、免疫組織化学的にも、シナプス前部機能分子(synaptophysin)の密度が増加していることが確かめられた。これらの結果は、Translational psychiatry誌に掲載された(Yamamoto et al. 2021)。現在、新たに3q29 microdeletion syndrome患者から得られた疾患iPS分化神経細胞の電気生理学的解析を進めている。シナプス後電流の測定に加えて、軸索を刺激することによって引き起こされるシナプス後電流(evoked EPSC)も測定することに成功し、paired-pulse facilitation等の測定を行っている。 統合失調症関連分子の分子イメージングについては、iPS分化神経細胞への適用の前段階として、マウス海馬神経細胞上でneurexin分子の動態解析を行った。軸索内でneurexin分子は両方向性の動態を示し、特定のシナプスに集積することにより、個々のシナプスの成熟を調節していることを示す結果が得られたので、現在論文執筆中である。今後、疾患iPS分化神経細胞上で同様にneurexinの分子動態を測定することを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年当初の計画として、①iPS分化神経細胞の成熟を促進するための培養技術の開発を行い、アストロサイトを共培養した神経細胞から、比較的培養初期(25-30日)にシナプス後電流を効率よく記録することができるようになった。また、統合失調症患者より得られたiPS細胞から分化させた神経細胞から電気生理学的手法を用いてシナプス電流を測定し、健常者との比較した結果を論文発表できた。さらに、他の統合失調症患者由来の疾患iPS分化神経細胞の電気生理学的解析を現在進めている。 一方で、②統合失調症患者において、異常が見つかった蛋白質を蛍光標識することにより生きた疾患神経細胞上で追跡する「分子イメージング法」を疾患iPS分化神経細胞に適用することについては、現在のところマウス海馬培養神経細胞を用いた実験ではあるが、統合失調症関連分子の動態解析に成功し、その結果をまとめた論文を執筆中である。今後iPS分化神経細胞への適用を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間で、iPS分化神経細胞培養技術の開発、iPS分化神経細胞からの単一興奮性シナプス電流(mEPSC)及び軸索の刺激によって引き起こされる興奮性シナプス後電流(evoked EPSC)の測定を効率良く行うことができるようになった。これらの進展に基づいて、次のステップとして、3q29 microdeletion syndrome患者から得られた疾患iPS分化神経細胞におけるmEPSC及びevoked EPSCの測定を現在進めている。evoked EPSCの測定が可能になったことにより、AMPA/NMDA比のようなシナプス後部の電気生理学的性質だけでなく、paired-pulse facilitation/depressionを調べることによってシナプス前部の性質を解析することができるようになった。シナプス前後部の機能をより詳細に調べて、統合失調症の病態をシナプスレベルで明らかにしたい。 統合失調症関連分子の分子イメージングに関しては、今後疾患iPS分化神経細胞への適用を試みる。まずは、蛍光蛋白質と関連分子を繋いだコンストラクトを作成する予定である。関連分子の候補として、統合失調症への関連が示唆されているneurexinを検討している。現在までに、マウス海馬神経細胞を用いて分子イメージングを行い、neurexinがシナプスの成熟に関与していることが明らかになってきた。今後、疾患iPS分化神経細胞上でneurexinの動態を追跡することにより、統合失調症の病態に分子レベルでアプローチしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も前年度に引き続いて、コロナ禍の影響により、実験ができない期間があったため、培養の回数が減り予定していたよりも消耗品の購入による支出が少なかった。電気生理学的測定に使用している顕微鏡の老朽化が著しく、新しい顕微鏡の購入が必須であった。前年度分として請求した助成金と合わせて、倒立型顕微鏡を購入した。しかしながら、倒立顕微鏡に蛍光観察装置を装備するための予算が不足したため、翌年度分として請求した助成金と合わせて蛍光観察装置を購入予定である。
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