研究実績の概要 |
うつ病は、長期にわたる抑うつ症状や、意欲の低下などを主症状とする精神疾患であり、本邦を含む先進国における最大の疾患負荷となっている。しかし、長期にわたる様々なストレスがどのようにうつ病を発症させるのか、治療効果が見られるまでに数週間以上を要する抗うつ薬が、どのようにうつ病を治療しているのかは未だ明らかになっていない。 申請者らのものを含むこれまでの研究から、セロトニン神経の活動性とうつ症状との間に強い負の相関があることが示されているが、このセロトニン神経活動変化がうつ症状表出/消失の原因であるかは不明である。そこで本研究では、光遺伝学的活動計測/活動介入を用いて、セロトニン神経活動変化がうつ症状表出/消失の決定因子であるという因果律を示すとともに、その活動変化の「臨界点」およびその分子メカニズムの解明に挑戦した。 その結果、独自開発のセロトニン神経選択的GCaMP6s発現ウイルスとin vivoファイバーフォトメトリー法を用いたカルシウムイメージングを組み合わせることで、うつ病態で障害されている報酬感受性における正中縫線核の役割を、その投射先および責任受容体の同定を含めて詳細に明らかにし論文報告した(Kawai et al., Nat Commun. 2022)。また背側縫線核セロトニン神経の繰り返し刺激によるストレス耐性獲得およびその機序における海馬快経験アンサンブルの重要性を見出し論文報告した(Nagai et al., Cell Rep. 2023)。かかる成果は、うつ病態におけるセロトニン神経群の重要性を強く示唆するものである。
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