研究課題
先天脂質代謝異常症であるNiemann pick disease type C(NPC)では、中枢神経障害に加え遊離型コレステロール蓄積を伴う肝障害が問題となる。本研究では NPCでみられる肝障害に対する治療薬の開発ならびに病態発症機序の解明を目的として、以下の3点について検討を行う。昨年までの知見に基づき①シクロデキストリン誘導体の脳室内投与時のモデルマウス肝病変の変化について、脳-肝病変の連関について、その分子機序を精査する。②In vitroおよびin vivoモデルを用いた治療薬候補化合物の有効性評価について、現在、有効性が見いだせている化合物について、さらなる検討を行う。さらに、③U18666A処置に よりアセトアミノフェン毒性代謝物NAPQIの産生が変化するかを3次元培養肝細胞モデルで精査する。① NPCモデルマウスに2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)を脳室内微量投与したときの肝臓および中枢のタンパク質および遺伝子発現を網羅的に解析し、変動する分子群を同定した。また、その知見に基づき責任分子候補の1つを見出した。さらに、責任分子候補を中心としたシグナル伝達についても薬理学的に評価し、関連する分子およびそれらの受容体の関与について明らかにした。②In vitroおよびin vivoモデルを用いて、マルトシル-γ-シクロデキストリン(G2GCD)のNPC肝病変改善効果およびHPBCDよりも優れた安全性を明らかにした。有効性および安全性のバランスに優れるG2GCDの発見は、HPBCDに変わる新規治療薬としての可能性を示すものであり極めて重要な発見であると考える。③U18666A誘発NPC肝細胞モデルにおけるNAPQI産生の変動については、今年度は測定系が安定せず明らかにすることはできなかった。測定系の問題を解決して次年度以降に目標を達成できるよう準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
①モデルマウス肝病変に対するHPBCDの脳室内微量投与実験について、その責任分子候補を見出した。その知見をもとに、現在製薬企業と共同研究を開始し、当初の計画以上に進展している。また、②新規治療薬候補G2GCDの有効性・安全性評価を完了して英文学術誌に投稿し、現在リバイス中であり、こちらも当初の計画以上に進展している。一方で、③U18666A誘発NPCモデルにおけるNAPQI産生変動実験については、想定外の事態で研究が滞っていたが、測定系の問題点を解決し、急ピッチで研究を進めている。これら全てを勘案し、プロジェクト全体の進展としては概ね順調に進展していると判断した。
①シクロデキストリン誘導体の脳室内投与時のモデルマウス肝病変の変化について、見出した責任分子候補の肝病変に及ぼす影響を評価するとともに、NPC肝臓-脳病態連関の全容解明にさらなる検討を行う。③U18666A処置に よりアセトアミノフェン毒性代謝物NAPQIの産生について、代謝酵素の発現変動も含め精査する。
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