研究課題/領域番号 |
20K07067
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
神戸 悠輝 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 講師 (60549913)
|
研究分担者 |
宮田 篤郎 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (60183969)
栗原 崇 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (60282745)
山下 哲 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (40740197)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド / ガラニン / 摂食調節機構 / 抗肥満薬 / アデノ随伴ウイルス / shRNA / 神経回路特異的操作 / 視床下部 |
研究実績の概要 |
視床下部腹内側核下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド (PACAP) 発現細胞の,昼夜間での摂食調節切り替えメカニズムの解明に関して、アグーチ関連ペプチドあるいはプロオピオメラノコルチン (POMC) のプロモータ領域の一部を、緑色あるいは赤色カルシウム感受性蛍光タンパク質発現プラスミドに組み込み、アデノ随伴ウイルス (AAV) にパッケージングした。これらのAAVをマウスの弓状核に感染させて、まずはポジティブコントロールとして摂食亢進あるいは抑制ホルモンであるグレリンあるいはレプチンを脳室内に投与し、ファイバーフォトメトリー法で弓状核の蛍光強度変化を観察した。その結果、グレリンを投与した場合ではいずれの蛍光強度変化も観察されなかったものの、レプチンを投与すると、POMCプロモータで発現させた赤色カルシウム感受性蛍光タンパク質の蛍光強度増加が観察されたことから、POMC発現細胞の神経活動は少なくとも記録できたと考えられる。一方、PACAPの下流で摂食を調節する神経ペプチドを探索する目的で、正常あるいはPACAP欠損マウスを絶食し、その視床下部における摂食に関与することが報告されている神経ペプチドの発現を検討すると、ガラニンの発現は絶食に伴って有意に増加し、PACAP欠損マウスにおいてこの発現増強は有意にキャンセルされた。そこで、絶食によってPACAP依存的にガラニンの発現が増加する脳部位を詳細に解析すると、視床下部室傍核および背内側核を見出した。そこで、これらの脳部位におけるガラニンの発現をノックダウンするために、ガラニンを特異的に認識するshRNAをデザインし、ガラニン発現細胞とともに293細胞にトランスフェクションし、最適なshRNA配列を選抜した。その後、同shRNA配列をプラスミドに組み込みAAVにパッケージングした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視床下部腹内側核下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド (PACAP) 発現細胞の,昼夜間での摂食調節切り替えメカニズムの解明に関して、アグーチ関連ペプチド発現細胞からのカルシウムシグナルを観察することはできなかったものの、プロオピオメラノコルチン発現細胞からのカルシウムシグナルをファイバーフォトメトリー法を用いて、自由行動下のマウスから検出でき、予想通り摂食抑制ホルモンであるレプチンに対しての反応を観察できたことは大きな成果と考えられる。一方で、腹内側核PACAP発現細胞から,ガラニン発現細胞を介した摂食調節機構の解明に関しては、大きく進展した。すなわち、摂食調節に対して多くのペプチドホルモンが関与することはよく知られているが、いずれのペプチドホルモンがPACAPの制御下で調節されているか明らかではなかった。しかし、本研究では、PACAPの全身性欠損で視床下部ガラニンの発現が有意に減少するとともに、ガラニンは視床下部腹内側核におけるPACAPの過剰発現では増加するとともに、PACAPのノックダウンでは減少することが明らかとなったことから、視床下部腹内側核PACAPは視床下部のガラニンの発現を強く制御することが明らかとなった。さらに驚くべきことに、本研究で初めて見出した腹内側核PACAPの昼夜間で摂食を切り替えるユニークな性質のように、ガラニンもまた個体の状態に応じて、摂食促進にも抑制にも働きうる可能性が報告されている。このような理由から、今年度は概ね順調に研究が進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
アグーチ関連ペプチド (AgRP) のプロモータに関しては、今回は約1000 bpのプロモータを用いたが、アデノ随伴ウイルス (AAV) へのパッケージのキャパシティとして、あと約1500 bpを追加することができるので、AgRP発現細胞に特異的な発現を可能にするために使用するプロモータ領域を拡張するとともに、より強い発現を達成するために、最小サイトメガロウイルスプロモータを組み込んだ発現プラスミドおよびAAVを作成する。また、少なくともプロオピオメラノコルチンプロモータはワークすることを確認しているので、同プロモータの下流でカルシウム感受性蛍光タンパク質を発現させるとともに、視床下部腹内側核PACAP発現細胞特異的にデザイナードラッグによってのみ活性化されるデザイナー受容体を発現させ、昼間および夜間にクロザピン-N-オキシドを投与し、視床下部腹内側核PACAP発現細胞を活性化させたときのプロオピオメラノコルチン発現細胞の神経活動を記録する。 一方、ガラニン発現細胞を介した摂食調節機構の解明に関しては、ガラニンに対するshRNAを発現するAAVが完成しており、視床下部室傍核あるいは背内側核をガラニンを発現する責任部位の候補として同定しているので、これらの脳部位のガラニンの発現をノックダウンしたときの摂食行動を測定する。 さらに、肥満病態における視床下部腹内側核PACAPあるいは視床下部ガラニンの関与について検討する。すなわち、高脂肪食を慢性的に摂取することによって作成した食餌誘導性の肥満モデルマウス、あるいは摂食抑制ホルモン・レプチンを欠損した遺伝的な肥満モデルマウスを用いて、PACAPあるいはガラニンの脳内発現様式の変化、あるいはこれらの神経ペプチドのシグナルを抑制した場合における抗肥満効果を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナウイルス感染症の影響で学会が延期になったり、Web開催になったため予定より旅費が少なかった事が次年度使用額(B-A)> 0になった主な理由である。次年度使用額(B-A)は消耗品費に充てる予定である。
|