研究課題/領域番号 |
20K07072
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
冨田 修平 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (00263898)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | HIF-PH阻害薬 / 低酸素 / 腫瘍免疫 / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
腫瘍組織における低酸素誘導転写因子(HIF)の恒常的な活性化は,がんの進展や転移を促進する。また、腫瘍内マクロファージ(Mφ)は、がん微小環境により腫瘍増殖や転移を促進する形質を付与される。その一方で、LPSやIFNγによるMφの活性化は腫瘍進展に対して抑制的作用を示す。申請者は,腫瘍移植モデル動物実験において,HIFシグナルを増強するHIF-PH阻害薬が、腫瘍内のMφ亜集団に直接作用することにより腫瘍増殖を抑制して生存期間を延長させることを見出した。本研究の目的は,PHD-HIFを基軸とした詳細な分子解析を通して、HIF-PH阻害薬により形質変換した腫瘍内Mφが抗腫瘍効果をもたらす機序を明らかにすることを第一目的とする。また、本研究の遂行は、現在の腫瘍免疫療法では難治性を示すがんに対して,自然免疫の活性化過程を標的とした新しい腫瘍免疫療法を創出する可能性を有しており、新規創薬研究分野にも繋がることが期待される。 本研究では、PHD-HIFシグナルの活性化による腫瘍内Ly6CloMφの貪食作用の促進機序の解明を目指す。とくに貪食開始の引き金となる腫瘍細胞の認識機序には深く着目する。また、Mφを介する細胞障害性T細胞などの獲得免疫機能の賦活化に対する影響を検証する。今年度は,昨年度に引き続き,腫瘍内MφのLy6Clo集団の貪食作用の促進機序の解明を目的に,トランスクリプトーム解析によるHIFを介する発現変動遺伝子群の探索,およびHIFシグナルを介する貪食関連分子の同定および機能解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
網羅的遺伝子・分子検索におけるドライ解析は継続的に進めているが、その過程に既に候補として抽出された分子の機能解析を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では,引き続き腫瘍内MφのHIFシグナル増強による獲得免疫機能の賦活化に関する検証を進める。HIFシグナルを介してMφの貪食作用が促進されると、ファゴリソソーム内で消化された細胞外由来のペプチドの抗原提示能も上昇すると考えられる。その結果として獲得免疫応答の促進効果が期待できる。そこで、Mφの形質変化から獲得免疫応答の主役である細胞障害性T細胞の活性化までを検証し、HIFシグナルによるMφ活性化による抗腫瘍効果の全体像の様子を理解する。具体的には、まず、これまでの知見より、担がんマウスモデルを用いて、M1型様あるいはM2型様Mφの各種発現マーカーのほか、スカベンジャー受容体やマンノース受容体などの貪食や自己・非自己の認識に関わる分子の発現を検証する。同時に他の自然免疫系細胞のNK細胞、樹状細胞、NKT細胞の発現も確認する。次に、Mφの抗原提示に関わる分子群(MHCII、LIP10、CLIP、他)の発現を確認する。最後にT細胞各サブセットおよびその活性化マーカー発現についてフローサイトメータで解析する。 同時に,昨年度同定した候補分子Aを介する腫瘍内Mφの貪食作用の分子機序を明らかにする。具体的には,独自の先行研究で明らかになっているMφの貪食の制御分子の一つである分子Bとの相互作用について個体レベル細胞培養レベルで明確にする。最終的には,本研究成果を通して,自然免疫を基盤とした候補分子Aを介する新規抗腫瘍薬の開発のためのシーズ開拓への可能性について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗状況は概ね順調であり、候補分子の抽出にかかる費用が当初の計画より減額できた。残額は次年度の機能解析に使用する予定である。
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