研究課題/領域番号 |
20K07077
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
秋葉 聡 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (70231826)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎 / IVA型ホスホリパーゼA2 |
研究実績の概要 |
本研究では、炎症制御の観点から起炎関連酵素であるIVA型ホスホリパーゼA2(IVA-PLA2)に着目し、肝線維化を担う本酵素の発現責任細胞の同定を含め、本酵素の抑制が肝線維化後の病態に対して治療効果を示すことを、時期選択的(後天的)かつ細胞種特異的IVA-PLA2欠損マウスを用いて実証する。 2020年度では、まずは任意の時期にIVA-PLA2を全身性に欠損させることが可能なマウスを準備した。すなわち、タモキシフェンを一定期間腹腔内投与することでCreリコンビナーゼを発現し、その作用を介してIVA-PLA2が全身性に欠損するマウスを作出し、種々濃度のタモキシフェンを一定期間または一定間隔で腹腔内投与する条件下に、マウスの死亡率および肝臓におけるIVA-PLA2発現量への影響を解析した。その結果、マウスへの毒性が生じない投与条件下では、残念ながらIVA-PLA2の発現量の低下はみられず、当初の予想とは異なった。 一方、本酵素の阻害が治療効果につながることを実証するにあたり、ヒトにおける実際の治療を踏まえると、食事療法を実施する中で本酵素の阻害の治療効果を検討する実験系を設定することが適切と考える。すなわち、高脂肪食投与による肝線維化形成後に、飼料を普通食に戻すことにより、高脂肪食負荷後の肝組織では自然な・潜在的な回復が見られるが、この肝組織の回復過程において、時期選択的(後天的)なIVA-PLA2の欠損の効果を検討することになる。そこで、まずは、肝星細胞特異的IVA-PLA2(先天的)欠損マウス用いた結果、高脂肪食投与による肝線維化の程度は対照マウスと同程度であったが(軽減されていなかったが)、普通食に戻した後の肝線維化の軽減は、対照マウスに比し促進している傾向がみられた。それゆえ、肝星細胞でのIVA-PLA2の阻害は、食生活改善に伴う肝組織の回復に効果があると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
タモキシフェン投与によりIVA-PLA2が欠損するマウスは、タモキシフェンにより全身性にCreリコンビナーゼを発現誘導させるマウス(CreERTマウスと表記する)とIVA-PLA2-floxedマウスとの交配により作出するが、望む遺伝子型のマウスを予定数得るのに期間を要したことが、研究の進行が遅れた一因であった。さらには、想定外の結果であったが、タモキシフェンの効果が全くみられなかったことである。CreERTマウスの使用実績報告はほとんどなかったが、その入手先が国内の機関であり、価格・納期の両面で入手しやすかったことから、当該マウスを使用した。しかしながら、先報を参考して計画したタモキシフェンの投与条件では、肝でのIVA-PLA2の欠損・減少が見られず、さらなる条件検討においても予想どおりには進まなかったことが、研究の進行が遅れた一因となった。
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今後の研究の推進方策 |
他の薬剤誘発性のCreリコンビナーゼ発現マウスを使用することで、問題点の解決を試みる。現在、当該目的に適したマウスの購入手続きを進めている。入手後は、当該マウスを利用した薬剤誘発性IVA-PLA2全身欠損マウスを作出し、まずは、薬剤の投与条件を肝でのIVA-PLA2の欠損を指標に検討する。この際、肝でのCreリコンビナーゼの発現程度に関しても確認する。さらには、薬剤誘発性IVA-PLA2全身欠損マウスに由来した腹腔マクロファージなどの培養細胞を用い、in vitroにて薬剤誘発性にIVA-PLA2の欠損が生じるか確かめる。 このような対応にて、時期選択的(後天的)なIVA-PLA2欠損マウスを用いたNASHへの治療標的分子としてのIVA-PLA2の位置付けを確立し、時期選択的(後天的)かつ細胞種特異的IVA-PLA2欠損マウスを用いた実験へとつなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(繰越額)としては、少額であり、翌年度分の物品費と合わせて適切に使用する。
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