非アルコール性脂肪肝炎(NASH)での炎症に起因した肝線維化を抑制することが、NASHの肝硬変・肝がんへの移行阻止につながることから、その治療薬の開発は重要課題である。本研究では、炎症制御の観点から起炎関連酵素であるIVA型ホスホリパーゼA2 (IVA-PLA2)に着目し、肝線維化を担うIVA-PLA2の発現責任細胞の同定を含め、本酵素の抑制が肝線維化後の病態に対して治療効果を示すことを、細胞種特異的IVA-PLA2欠損マウスを用いて実証した。 2021年度までの結果では、肝類洞内皮細胞特異的IVA-PLA2欠損マウスを用いた実験から、高脂肪食誘発性の肝線維化が軽減され、肝類洞内皮細胞の形態変化(有窓細胞の消失・キャピラリー化)も抑制されたが、肝実質細胞、肝星細胞、単球細胞特異的IVA-PLA2欠損マウスでは、そのような効果は見られなかった。しかしながら、2022年度では、肝星細胞の本酵素の阻害が治療につながることを、再度検証することとし、ヒトにおける実際の治療を踏まえ、食餌療法を実施する中で本酵素の阻害の治療効果を検討する実験系を設定した。すなわち、高脂肪食投与による肝線維化形成後に、飼料を普通食に戻すことにより、高脂肪食負荷後の肝組織では自然な・潜在的な回復が見られるが、この肝組織の回復過程において、IVA-PLA2の欠損の効果を検討した。その結果、肝星細胞特異的IVA-PLA2欠損マウスにおいて、高脂肪食9週間投与による肝線維化は対照マウスと同程度であった(軽減されていなかった)。一方、普通食に戻した後、対照マウスでは予想外に肝線維化が増悪化したが、同欠損マウスでは進展は抑制されていた。 本研究の結果からは、食餌療法(低脂肪食)を必須とすれば、類洞内皮細胞および肝星細胞のIVA-PLA2の阻害により不可逆的と思われる肝線維化の進展が抑制されることが明らかとなった。
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