研究課題/領域番号 |
20K07078
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
加藤 伸一 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (90281500)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GPR35 / 小腸傷害 / 大腸炎 / 炎症性腸疾患 |
研究実績の概要 |
オーファンGタンパク共役型受容体GPR35は、消化管に高発現していることが知られているが、その生体における役割については不明な部分が多い。本研究の目的は、炎症性腸疾患とその合併症におけるGPR35の役割を解明し、GPR35を標的とした新たな創薬理論を提案することである 。 本年度は、CRISPR-CAS9システムにより新規に作出したGPR35遺伝子欠損マウスの系統化と炎症性腸疾患の病態モデルとしてインドメタシン誘起小腸傷害およびデキストラン硫酸ナトリウム誘起大腸炎の病態に対するGPR35遺伝子欠損の影響について検討を行った。2本のgRNAをマウス受精卵にエレクトロポレーションにより導入することで、GPR35遺伝子を421 bpおよび481 bp(3~5番目の膜貫通ドメイン)を欠失したマウスを作出した。さらに、雌雄ホモ欠損の交配によるGPR35ホモ欠損マウス系統を樹立した。野生型マウスの小腸および大腸組織では、定量的RT-PCRによりGPR35 mRNAの明らかな発現が認められたが、GPR35遺伝子欠損マウスではそれらの発現は完全に消失していることを確認した。 インドメタシンの投与は、48時間後には小腸に重篤な出血性傷害を惹起したが、傷害の程度は、野生型と比較してGPR35遺伝子欠損マウスでは顕著に増悪することを見出した。また、デキストラン硫酸ナトリウムの7日間飲水投与は、下痢・下血および体重減少伴う大腸炎を惹起したが、病態の程度は、野生型マウスと比較してGPR35遺伝子欠損マウスでは、インドメタシン誘起小腸傷害の場合ほどではないものの、増悪する傾向が観察された。これらの結果より、GPR35は小腸および大腸の炎症性病変に対して抑制的に機能していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GPR35遺伝子欠損マウスの系統樹率と小腸および大腸における炎症性病変の変化については、当初の予定通り計画を実施できた。一方、GPR35に対する活性化作用を有するクロモグリク酸のインドメタシン誘起小腸傷害およびデキストラン硫酸ナトリウム誘起大腸炎に対する効果、さらにそれらの効果に対するGPR35遺伝子欠損の影響についても検討する予定であったが、インドメタシン誘起小腸傷害に対してクロモグリク酸の投与は明らかな抑制効果を示さなかった。過去の報告などから、この結果は、クロモグリク酸はマウスに対する親和性が高くないことによるものと考えられる。他のGPR35に対する活性化作用を有する薬物の効果について検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
他のGPR35活性化作用が報告されているロドキサミドやザプリナストなどのインドメタシン誘起小腸傷害およびデキストラン硫酸ナトリウム誘起大腸炎に対する効果とGPR35遺伝子欠損による影響について検討を進める。次に、GPR35発現局在および各種病態時における発現変化について、定量的RT-PCR、Western blotおよび免疫組織学的手法などにより検討する。GPR35に対する特異的な抗体が現時点では入手困難であることから、RNAscopeによりin situハイブリダイゼーションを用いた検討も併せて行う予定である。さらに、GPR35遺伝子欠損マウスを用いた骨髄キメラマウスを作製し、病態に関与するGPR35の発現局在を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響と、当初予定していたクロモグリク酸の効果が検出できなかったことから、研究の進行がやや遅れたため、当該年度の執行がやや少なくなった。次年度は、今年度実施が遅れた研究計画も併せて実施する予定。
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