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2020 年度 実施状況報告書

リバーストランスレーショナルリサーチを基盤とした新規精神疾患治療薬の開発

研究課題

研究課題/領域番号 20K07082
研究機関藤田医科大学

研究代表者

永井 拓  藤田医科大学, その他部局等, 教授 (10377426)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード統合失調症 / 遺伝子変異 / マウス
研究実績の概要

統合失調症は、陽性症状、陰性症状および認知機能障害を示す重大な精神疾患であり、現在の治療では十分な効果が得られない難治例も多い。現在、精神疾患の診断は精神症候学に依拠しており、病態を反映した客観的な診断法はなく、治療法の開発も遅れている。養子研究や双生児研究などの遺伝疫学的研究から、統合失調症の発症には多因子の遺伝要因と、母体ウイルス感染などの周産期のイベントによる環境要因が深く関与していることが示唆されている。特に、その発症に関わる遺伝要因の比率を示す遺伝率は約80%と推測されており、疾患発症に関する遺伝的寄与は大きいと推測されている。しかし、発症メカニズムの詳細は未だ不明であり、病態に基づく治療薬開発が進んでいないのが現状である。一般に、ヒトの遺伝子は父母それぞれのゲノムに由来するものを一組ずつ、あわせて二組受け継ぐが、遺伝子のコピー数の個人差(コピー数多型; CNV)が存在することが明らかになっている。このCNVは、様々な薬の効きやすさや副作用の違いといった個人の体質差を生み出す原因として注目されており、精神疾患についても特定のCNVが発症に高いリスクを付与することが示唆されている。申請者の所属する研究グループは、網羅的ゲノム解析により統合失調症の発症に強く関連するCNVとしてARHGAP10を含む多数の遺伝子を日本人の統合失調症患者で同定し、ゲノム編集技術を用いて統合失調症患者と同様の遺伝子変異を有する新規モデルマウスを作製した。本研究課題では、神経化学、形態学および行動薬理学を融合させた包括的解析を実施することにより統合失調症患者で同定されたARHGAP10遺伝子変異の病態生理学的意義を明らかにするとともに、Rhoシグナルを標的とした新規治療薬に関するproof of conceptの取得を目指した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Arhagap10は脳内に発現しており、神経の発達に重要な役割を果たしていることが知られている。しかしながら、詳細なArhgap10の時空間的な発現パターンは不明であることから、胎生14日から生後56日のマウスの線状体、前頭皮質、海馬、小脳および脳幹におけるArhgap10 mRNAの発現を調べた。小脳、線状体および前頭皮質のArhgap10 mRNAレベルは年齢依存的に増加し、生後0日と比較して生後56日では有意な増加が観察された。生後56日齢における脳内のArhgap10 mRNAレベルは、線状体および側坐核が最も高い値を示し、次いで前頭皮質でその発現が認められた。海馬や黒質・腹側被蓋野および縫線核など他の脳部位においてArhgap10 mRNAレベルは低い値を示した。In Situハイブリダイゼーション法でも線状体、前頭皮質および小脳でArhgap10が発現することを確認した。
ARHGAP10は低分子量Gタンパク質であるRhoAやCdc42経路を介して線維芽細胞の細胞形態を制御する。RhoキナーゼはRhoAのエフェクターであり、PAKはCdc42およびRac1のエフェクターとして作用する。Rhoキナーゼはリン酸化MYPT1 T696を介してミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の活性を低下させ、間接的にミオシン軽鎖のリン酸化を増加させることから、Arhgap10遺伝子変異マウスの側坐核および線状体におけるMYPT1およびPAK1/2のリン酸化レベルを解析した。Arhgap10変異マウスではMYPT1のリン酸化レベルが野生型マウスと比較して有意に増加した。リン酸化PAK1/2 S144/141のレベルに関してもArhgap10変異マウスで有意な増加が認められた。これらの結果からArhgap10の遺伝子変異は線状体および側坐核でRhoシグナル経路を亢進することが示唆された。

今後の研究の推進方策

形態学的解析、神経機能解析およびRhoシグナル阻害薬の評価を予定している。
形態学的解析では、脳の構造はニッスル染色により評価する。ゴルジ染色により神経細胞間の情報伝達の場となるシナプスを構成するスパインの数や形態を神経細胞の構造を解析する。細胞特異的マーカータンパク質の免疫染色によりドパミン、グルタミン酸およびGABA作動性神経の細胞数を解析する。
神経機能解析では、マイクロダイアリシス法により細胞外ドパミン遊離量を測定する。行動試験により高次脳機能(不安、運動機能、学習記憶、情報処理機能、衝動性、視覚認知)を評価する。Rhoシグナル阻害薬の評価では、Rhoキナーゼ阻害薬を経口/腹腔内投与したマウスの脳内薬物濃度を液体クロマトグラフィー質量分析装置で測定し、脳内濃度がKi値を超える投与量を設定する。上述のARHGAP10変異マウスの解析で認められる異常がRhoシグナル阻害薬の投与により改善するかどうかを評価する。

次年度使用額が生じた理由

Arhgap10遺伝子変異マウスはin houseで交配しているため、当初の予定より得られるマウスの数が少なかった。そのためリン酸化解析については概ね実施できたが、不足している動物数を来年度に追加して実施する予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2020

すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Comprehensive analysis of a novel mouse model of the 22q11.2 deletion syndrome: a model with the most common 3.0-Mb deletion at the human 22q11.2 locus.2020

    • 著者名/発表者名
      Saito, R., Koebis, M., Nagai, T., Shimizu, K., Liao, J., Wulaer, B., Sugaya, Y., Nagahama, K., Uesaka, N., Kushima, I., Mori, D., Maruyama, K., Nakao, K., Kurihara, H., Yamada, K., Kano, M., Fukada, Y., Ozaki, N., Aiba, A.
    • 雑誌名

      Transl. Psychiatry

      巻: 10 ページ: 35

    • DOI

      10.1038/s41398-020-0723-z

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Generation and analysis of novel Reln-deleted mouse model corresponding to exonic Reln deletion in schizophrenia.2020

    • 著者名/発表者名
      Sawahata, M., Mori, D., Arioka, Y., Kubo, H., Kushima, I., Kitagawa, K., Sobue, A., Shishido, E., Sekiguchi, M., Kodama, A., Ikeda, R, Aleksic, B., Kimura, H., Ishizuka, K., Nagai, T., Kaibuchi, K., Nabeshima, T., Yamada, K., Ozaki, N.
    • 雑誌名

      Psychiatry Clin. Neurosci.

      巻: 74 ページ: 318-327

    • DOI

      10.1111/pcn.12993

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] AUTS2 regulation of synapses for proper synaptic inputs and social communication.2020

    • 著者名/発表者名
      Hori, K., Yamashiro, K., Nagai, T., Shan, W., Egusa, S.F., Shimaoka, K., Kuniishi, H., Sekiguchi, M., Go, Y., Tatsumoto, S., Yamada, M., Shiraishi, R., Kanno, K., Miyashita, S., Sakamoto, A., Abe, M., Sakimura, K., Sone, M., Sohya, K., Kunugi, H., Wada, K., Yamada, M., Yamada, K., Hoshino, M.
    • 雑誌名

      iScience

      巻: 23 ページ: 101183

    • DOI

      10.1016/j.isci.2020.101183

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ARHGAP10, which encodes Rho GTPase-activating protein 10, is a novel gene for schizophrenia risk.2020

    • 著者名/発表者名
      Sekiguchi, M., et al.
    • 雑誌名

      Transl. Psychiatry

      巻: 10 ページ: 247

    • DOI

      10.1038/s41398-020-00917-z.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Reelin supplementation into the hippocampus rescues abnormal behavior in a mouse model of neurodevelopmental disorders.2020

    • 著者名/発表者名
      Ibi, D., Nakasai, G., Koide N., Sawahata, M., Kohno, T., Takaba, R., Nagai, T., Hattori, M., Nabeshima, T., Yamada, K., Hiramatsu, M.
    • 雑誌名

      Front. Cell. Neurosci.

      巻: 14 ページ: 285

    • DOI

      10.3389/fncel.2020.00285

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Accumbal D2R-medium spiny neurons regulate aversive behaviors through PKA-Rap1 pathway.2020

    • 著者名/発表者名
      Lin, Y-H., Yamahashi, Y., Kuroda, K., Faruk M. O., Zhang, X., Yamada, K., Yamanaka, A., Nagai, T., Kaibuchi, K.
    • 雑誌名

      Neurocham. Int.

      巻: 143 ページ: 104935

    • DOI

      10.1016/j.neuint.2020.104935.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 客観的な診断に基づく統合失調症の新規治療法の開発2020

    • 著者名/発表者名
      永井拓, 尾崎紀夫, 山田清文.
    • 学会等名
      第30回日本医療薬学会年会
  • [学会発表] 次世代を担う若き医療薬科学研究者達へ繋ぐバトン:恩師からのメッセージ2020

    • 著者名/発表者名
      永井拓
    • 学会等名
      第14回次世代を担う若手のための医療薬科学シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 精神疾患の新規薬物療法を目指したリバーストランスレーショナルリサーチ2020

    • 著者名/発表者名
      永井拓
    • 学会等名
      第41回日本臨床薬理学会学術総会
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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