研究課題/領域番号 |
20K07087
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
衣斐 督和 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10336539)
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研究分担者 |
浅岡 希美 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90826091) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | NOX1 / 自閉症様行動 / 母体免疫活性化 / 小脳 / プルキンエ細胞 |
研究実績の概要 |
高次脳機能障害である精神疾患の罹患率は増加しており、可及的速やかな病態解明と新たな治療法の確立が課題となっている。近年、諸種の精神疾患の発症・進展に活性酸素種(ROS)の関与が示されているが、その産生源は明らかになっていない。最近、申請者は触媒サブユニット NOX1 で構成される ROS 産生酵素、NADPH オキシダーゼがストレスによるうつ様行動や不安様行動という精神疾患様の行動発現に関わることを見出し、「NOX1が精神疾患の発症・進展に共通して寄与する ROS 産生源ではないか?」と考えるに至った。この仮説を検証するため、Nox1 遺伝子欠損動物(NOX1-KO)を用い、神経発達障害により引き起こされる統合失調症様および自閉症様行動への NOX1 の関与とその機序を解析する。具体的には神経発達障害モデルマウスを作製し、マウスの行動や脳内の各種遺伝子発現変化およびROS産生量を野生型マウスとNOX1-KOマウスで比較解析することでNOX1が発達障害に起因する精神疾患の発症・進展に寄与することを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は母体免疫活性化(MIA)により惹起される自閉症様行動におけるNOX1の役割について解析した。妊娠12.5日目マウスにpoly I:C (3mg/kg) を腹腔内投与することでMIAを引き起こした。polyI:C投与3時間後に母体マウスの血清IL6レベルの著名な増加が認められたが、野生型(WT)およびNOX1欠損マウス(NOX1-KO)で差異は認められず、両遺伝子群で同程度の母体免疫活性化が生じることが示された。しかし、MIAマウスから産まれたWT仔獣(9-11週齢)は社会性行動および協調運動の低下が認められたが、NOX1-KOではこれら行動異常は認められなかった。さらにWTで認められた小脳プルキンエ細胞の脱落はNOX1-KOで有意に抑制された。胎生14.5日目小脳および大脳皮質においてNOX1 mRNAの発現増加が増加したが、NOX1 mRNA発現増加は仔獣(4週齢、11週齢)の小脳および大脳皮質では認められなかった。以上の結果より、polyI:Cを用いたMIAモデルにおいて、胎生期における小脳のNOX1 mRNA発現誘導が仔獣の自閉症様行動と小脳プルキンエ細胞の脱落に関わることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
NOX1は胎生期での脳内変化に寄与する可能性が示されたため、現時点では未着手の新生仔の行動異常および小脳構造変化について解析する予定である。具体的には、行動異常を超音波啼鳴反応試験にて、さらに小脳を形成する各種神経細胞の量的変化を免疫染色にて評価し、発達障害の胎生期におけるNOX1の役割について明らかにする。また発達障害を引き起こすモデルを作成し、NOX1が様々な原因で引き起こされる発達障害を起因とする精神疾患に寄与するかを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度予算では新生仔獣の鳴き声を指標とするコミニュケーション障害解析のために必要な超音波解析装置を購入することができなかった。また共同で研究を遂行していた大学院生の博士論文のために自閉症様行動の表現系である社会性行動障害の発現にNOX1が関わることを見出したところで報告した。しかし、NOX1は胎生期で発現増加が認められることから、次年度に新生仔獣のコミニュケーション障害を解析する必要がありその購入代金に充当する。
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