申請者は触媒サブユニット NOX1 で構成される ROS 産生酵素、 NADPH オキシダーゼがストレスによるうつ様行動や不安様行動に関わることを見出し、「NOX1が精神疾患の発症・進展に共通して寄与する ROS 産生源ではないか?」との仮説を検証するため、神経発達障害により引き起こされる自閉症様行動への NOX1 の関与とその機序を解析した。妊娠12.5日目マウスにpoly I:C (3mg/kg) を腹腔内投与することでMIAを作製し、その仔獣において自閉症様行動を惹起させた。polyI:C投与3時間後に母体マウスの血清IL6レベルの著名な増加が認められたが、野生型(WT)およびNOX1欠損マウス(NOX1- KO)で差異は認められず、両遺伝子群で同程度の母体免疫活性化が生じることが示された。しかし、MIAマウスから産まれたWT仔獣(9-11週齢)は社会性行動および協調運動の低下が認められたが、NOX1-KOではこれら行動異常は認められなかった。さらにWTで認められた小脳プルキンエ細胞の脱落はNOX1-KOで有意に抑制された。胎生14.5日目小脳および大脳皮質においてNOX1 mRNAの発現増加が増加したが、NOX1 mRNA発現増加は仔獣(4週齢、11週齢)の小脳および大脳皮質では認められなかった。以上の結果より、polyI:Cを用いたMIAモデルにおいて、胎生期における小脳のNOX1 mRNA発現誘導が仔獣の自閉症様行動と小脳プルキンエ細胞の脱落に関わることが示唆された。
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