本研究の目的は、肺静脈心筋の電気的自発活動を選択的に抑制する薬理学的機序を見出し、心房細動の薬物治療及び新規治療薬開発に資する知見を得ることである。本年度は、電位依存性Naチャネルの持続性成分(Late INa)による心機能抑制のリスクの有無を評価するとともに、この機序に基づき肺静脈心筋の自発活動を抑制する薬物を探索した。 既存の第I群の抗不整脈薬はNaチャネル遮断薬であり、これらの薬物は心筋収縮力および洞房結節の発火頻度を低下させるとされているが、その機序についてはほとんど検討されていない。そこで、モルモット摘出心室筋標本の収縮力を指標として、9種類の第I群抗不整脈薬について検討したところ、抑制作用の強さは、propafenone > aprindine > cibenzoline > flecainide > ranolazine > disopyramide > pilsicainide > mexiletine > GS-458967の順であった。この効力順は意外にNaチャネルを遮断する強さとは相関せず、むしろCaチャネルを遮断する作用と強く相関した。このことは、Late INa遮断は、拍動数や心拍出量といった心臓機能を低下させることなく、肺静脈心筋自発活動の抑制につながることが判明した。そこで、既存の薬物や新規化合物についてLate INa遮断作用を評価したところ、NCC-3902に強い遮断作用が見られた。NCC-3902はそれ以外の主要なイオンチャネルやトランスポーターに対しては作用せず、選択性の高いLate INa遮断薬であることが判明した。NCC-3902が肺静脈心筋の自発活動を強く抑制したことから、Late INa遮断が心房細動治療に有力な薬理学的機序であり、NCC-3902は新たな作用機序に基づく心房細動治療薬のリード化合物となることが示された。
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