研究課題/領域番号 |
20K07093
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
棚橋 靖行 京都産業大学, 生命科学部, 准教授 (60582418)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Piezo1チャネル / 機械刺激受容チャネル / 大腸運動 / 平滑筋細胞 / Ca2+ |
研究実績の概要 |
消化管平滑筋には,機械刺激により開口する陽イオンチャネルの存在が知られている。この陽イオンチャネルは腸内容物による筋の伸展を感知し,平滑筋の収縮活性を変化させると考えられてきた。しかし,同チャネルの分子実体は特定されておらず,腸管運動調節における役割については不明である。本研究は,腸管運動制御メカニズムの全容解明に向けて,平滑筋細胞に発現するPiezo1チャネルの大腸運動調節における役割を明らかにするものである。今年度は,以下の点について検討した。 1.大腸組織におけるPiezo1チャネルの発現:マウス大腸組織からRNAを抽出し,RT-PCRによりPiezo1のmRNA発現を確認した。また,マウス大腸平滑筋細胞標本において,Piezo1に対する抗体を用いて免疫染色を行ったところ,平滑筋細胞は抗体に対して陽性反応を示した。 2.大腸輸送におけるPiezo1チャネルの役割:マウスの肛門から大腸内へビーズを挿入し,ビーズが排出されるまでの時間を大腸輸送能として評価した。マウスにPiezo1チャネル阻害薬であるGsMTx-4を投与すると,大腸輸送能が低下したのに対し,Piezo1チャネル活性化薬であるYoda1を投与した場合には,大腸輸送能は亢進した。 3.大腸平滑筋収縮調節におけるPiezo1チャネルの役割:マウス大腸標本の縦走筋ならびに輪走筋方向に発生する張力変化を記録した。Piezo1阻害薬であるGsMTx-4を標本に適用すると,縦走筋,輪走筋ともに自発収縮が抑制された。一方,Piezo1活性化薬であるYoda1を標本に適用すると,両平滑筋ともに収縮反応が生じた。Yoda1誘発性収縮反応は,神経伝導を遮断するtetrodotoxinの存在下でも生じた。 以上の結果は,平滑筋に発現するPiezo1チャネルが大腸運動の制御において重要な役割を果たしている可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルス感染症拡大のため,学内への立ち入り制限等,研究活動に多大な支障が生じた。そのため,予定していたPiezo1平滑筋特異的ノックアウト(KO)マウスの作製ならびに同マウスを用いた実験に遅れが生じている。一方,研究実績の概要で述べた通り,正常マウスを用いた実験については予定していた検討項目を概ね実施することができ,大腸運動におけるPiezo1チャネルの関与を示唆する結果が得られた。以上のことから「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
R2年度に得られた結果から,平滑筋細胞に発現するPiezo1チャネルが大腸運動の制御に関与している可能性が考えられた。次年度以降,この仮説をさらに裏付けるために,Piezo1平滑筋ノックアウト(KO)マウスを用いた研究を進める。まず,同KO マウスにおいて大腸輸送能を測定し,正常マウスの場合と比較する。また,同KOマウスから作製した大腸標本において,Piezo1活性化薬ならびに阻害薬を投与した時の蠕動運動および平滑筋収縮活性の変化を記録し,正常マウスの場合と比較する。さらに,正常マウスとKOマウスから大腸平滑筋細胞標本を作製し,標本に機械刺激またはPiezo1作動薬を適用したときに生じる電気的活性変化について解析する。 上記に加えて, tdTomatoとPiezo1の融合タンパク質を発現するマウスを導入し,tdTomatoの発現を指標として大腸組織におけるPiezo1チャネルの局在について詳細に検討する。また,Piezo1チャネルを介した平滑筋収縮反応におけるCa2+動員機構についても検討を行う。そこで,正常マウスの大腸片標本において,Piezo1活性化薬により発生させた収縮反応に対する電位依存性Ca2+チャネル阻害薬,Ca2+除去栄養液,Ca2+ストア枯渇薬の効果を検討する。これらの実験については,予備実験にすでに着手しているため,今後の本格的な実験にむけた準備は整っている。さらに,コリン作動性神経によるPiezo1チャネル調節機構についても順次検討していく予定である。具体的には,Piezo1 KOマウスの大腸片標本において経壁電気刺激によりコリン作動性神経を刺激したときの収縮反応を記録し,正常マウスの標本の反応と比較・解析する。次に,大腸平滑筋細胞標本において,機械刺激により誘発したPiezo1電流に対するムスカリン受容体刺激の効果をパッチクランプ法により検討する。
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