研究課題
炎症性腸疾患(IBD)は寛解と再燃を繰り返す難治性の慢性炎症疾患である。最近、IBDの長期寛解維持には、大腸での慢性炎症の徹底的な抑制とその結果としての腸管粘膜の完全な修復が必要であることが報告されたことから、発症後や再燃後の医療介入では長期寛解維持は期待できず、発症前、再燃前の予防的医療介入が重要であると考えられる。しかし、再燃の予防とそれによる長期寛解の維持を目的とした治療薬は開発されていないため、有用な治療薬の創出が強く求められている。そこで、状態遷移の臨界点での相関した「生物学的ゆらぎ」を捉える動的ネットワークバイオマーカー(DNB)解析によりIBDの未病・再燃前規定因子群を同定し、その病態生理学的役割を解明する事を目的とした。そこで先ず、DSS大腸炎モデルを用いて、7日まで経日的に大腸炎マウスの大腸を摘出し網羅的全遺伝子発現解析を行った。その結果、腸炎の症状は3日目までは観察されず、5日目及び7日目で顕著に現れた。一方で、DNB解析により、3日目に多くの遺伝子(未病遺伝子)が相関して大きくゆらぎ、発症前である未病の状態が3日目にある事が分かった。そこで、同定した未病遺伝子群の病態生理学的役割を解明するため、数理科学の共同研究者と共にネットワーク制御の観点から未病遺伝子群の重要度のランキングを行い、IBDとの関連が報告されていない遺伝子Xに絞り込みを行った。また、漢方薬YをDSS大腸炎モデルに投与したところDSS大腸炎が有意に抑制されたことから、今後、漢方薬Yの未病遺伝子群に対する作用を検討する予定である。さらに、遺伝子Xの未病状態での病態生理学的役割を詳細に解明すると共に、遺伝子Xの発現を亢進する、あるいは抑制する漢方薬やその構成生薬・成分の探索を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染症の拡大により、共同研究打ち合わせの出張や学会出張などの自粛による他大学の研究者との共同研究の遂行に支障が生じ、さらに大学院生の研究活動の抑制により研究の遂行に支障が生じた。しかし、急性大腸炎モデルの大腸サンプルでの網羅的全遺伝子発現解析データのDNB解析により、未病状態とそれに関連する未病遺伝子群を同定した。さらに未病状態に最も関連する、あるいは未病状態を規定する候補遺伝子を見出し、その病態生理学的解明に着手した。また、急性大腸炎モデルに有効な漢方薬を見出したので、今後、未病遺伝子群に対する作用を検討する予定である。
ポスト・コロナ禍での研究遂行への対応策も整備され、研究を遂行する上での課題は軽減されため、共同研究者と更なる研究の進展に取り組む。今後、未病遺伝子群の病態生理学的役割の解明に取り組むと共に、未病状態での薬剤介入で用いる事が出来る漢方薬関連薬剤の有用性の検討を行う。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、学術大会や共同研究のための旅費を使用しなかった事、および研究活動が制限され研究消耗品を予定よりも購入しなかった事により、次年度使用額が生じた。本学および他大学において、コロナ禍での研究遂行への対応策も整備され、研究を遂行する上での課題は軽減されつつあるため、研究目的を達成するため、計画遅延した研究や共同研究を精力的に進める。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Allergol Int.
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