これまでに同定した未病遺伝子群の病態生理学的役割を解明するため、未病遺伝子群の重要度のランキングを行った結果、mast cell protease 1および4というマスト細胞マーカーが最上位にランキングされた。粘膜にあるマスト細胞はいくつかの炎症性メディエーターを放出する能力を持ち、その結果、ヒトIBD等で炎症組織への免疫細胞の動員や神経細胞死の惹起等を引き起こし、腸管炎症を含む様々な炎症状態において重要な病態生理学的役割を果たしていると考えられている。また、腸管神経は、管腔の内容物による物理的侵襲のみならず、炎症、病原性微生物による腸内感染などによる侵襲を生涯受け続けており、これにより神経変性が引き起こされている。しかし、成体の腸管神経系では神経変性と同時に神経新生も活発に起こっていて腸管の恒常性が維持されているが、その詳細の多くは解明されていない。そこで、DSS大腸炎モデルを用い、腸管炎症による神経変性および神経新生と大腸炎に伴う腸管運動不全の関連について検討した。DSS大腸炎マウスの遠位結腸では神経原性の腸管収縮は抑制されていたが、NOS阻害剤で回復した。DSS大腸炎マウスの筋層間神経叢では神経新生および神経変性が起きていたが、神経線維の密度および神経細胞数に変化はなかった。しかし、大腸炎によりSox2陽性新生神経の割合は変化しなかったが、nNOS陽性神経の割合が有意に増加し、Sox2陽性新生神経に占めるnNOS陽性神経の割合も有意に増加した。以上の結果から、大腸の炎症により優先的、選択的にnNOS陽性神経の神経新生が惹起され、抑制性運動神経が優位となる神経ネットワークが亢進した事により、腸管運動が抑制されたことが示唆された。今後、同定した未病遺伝子群の病態生理学的役割を解明する事により、未病創薬での標的遺伝子の同定を行う。
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