研究課題/領域番号 |
20K07102
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田中 隆 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 教授 (90171769)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エラジタンニン / 酸化還元不均化 / キノン / ポリフェノール / 紅茶 |
研究実績の概要 |
植物界に広く分布するエラジタンニンは,ヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)エステルを持つポリフェノールと定義される。これまでそのHHDP基の生合成は,ガロイル基の単純な酸化的カップリングによるものと考えられてきた。しかし我々は,ガロイル基の酸化で最初に生成するのはHHDP基ではなく,その酸化型であるDHHDP基であり,生成したDHHDP基の酸化還元不均化反応,あるいは酵素的還元によりHHDP基が生成する新しい生合成機構を提唱した。 本年度は,化学的手法でさらなる確証を得た,すなわち,ポリフェノール酸化酵素の中心金属である銅の塩でガロイル基をもつ様々な基質を酸化すると,DHHDP型エステルがまず生成し,その酸化還元不均化反応でHHDPエステルが生成した。一方,同じ反応条件でHHDPエステルを処理しても変化せず,DHHDPエステルは生成しないことを確認した。さらに,その反応をエラジタンニンの生合成前駆体であるガロタンニンに適用すると天然に存在するエラジタンニンを合成することができた。これまで有機溶媒中で保護基を用いた有機合成的手法でのエラジタンニン合成は達成されているが,保護基を用いず水溶液中でエラジタンニンを得たのは初めてである。 茶カテキンの酸化により生成する紅茶ポリフェノールについても新しい反応機構を発見した。紅茶色素テアフラビンはカテキンのキノンが二量化して生成するが,その分解はこれまで十分理解できていなかった。今回テアフラビンが酸化されてできるキノンがさらに茶カテキンと容易に結合することを初めて明らかにし,生成物の構造も決定した。未だに構造不明の成分が多い紅茶ポリフェノールにおける重要な発見である。 以上の実験結果は,キノン二量化がポリフェノール代謝において重要な反応機構であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリフェノール代謝におけるキノン二量化と酸化還元不均化反応の重要性を,植物の成長に伴うエラジタンニンの構造変化,純粋分離した天然エラジタンニンの酸化還元不均化反応,モデル化合物を用いた化学反応とその天然エラジタンニン合成への応用,さらには紅茶ポリフェノールにおける新たな反応機構の発見によって裏付けることが出来た。また,エラジタンニン代謝と紅茶製造時のカテキン酸化に共通の反応機構も明らかとなり,ポリフェノール酸化における普遍的なメカニズムの存在も示唆された。今後は,未だに構造不明の紅茶色素テアルビジンの構造解明に向けて研究を展開していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
エラジタンニンについてはこれまで通り,インビトロでの反応を展開するとともに,植物の葉の成長に伴う成分変化の解析を行っていく。また,紅茶ポリフェノールについては,カテキン類の酵素酸化と自動酸化を詳細に比較検討し,共通する重合反応機構を見出して,紅茶高分子色素であるテアルビジンの生成機構解明を目指す。
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