昨年度に引き続き、薬物(抗菌薬)により幼若期に腸内細菌叢を攪乱したマウスを用いて、腸内細菌叢と神経精神機能の発達との関係性を追究した。その結果、抗菌薬のクラリスロマイシンを投与したマウスでは、成熟後に社会性の障害が見られること、腸内細菌叢のα多様性(Chao1 index)が低いことを見出した。また、本マウスでは大脳皮質前頭前野において、シナプス関連遺伝子発現量の減少と樹状突起スパインの形態異常が見られた。一方で16S rRNA解析から、本マウスの腸内細菌叢において、腸管上皮細胞を攻撃する機能の増加が予想された。これら大脳皮質前頭前野のシナプス関連遺伝子発現量の減少と腸内細菌叢の腸管上皮細胞を攻撃する機能の増加は負に相関していたことから、腸内細菌による腸管上皮細胞への攻撃の増加がシナプス(樹状突起スパイン)の形成異常を引き起こしている可能性が考えられた。 クラリスロマイシン投与マウスの腸内細菌叢において腸管上皮細胞を攻撃する機能が増加している原因を追究したところ、本マウスの回腸では、腸管バリア機能において重要な役割を果たしている抗菌ペプチドが顕著に減少していることを見出した。 そこで、回腸の抗菌ペプチドの発現量を指標に腸管バリア機能を正常化させる漢方薬の探索を行い、補中益気湯が抗菌ペプチドを増加させ、腸管バリア機能を正常化させる可能性を見出した。 現在は、クラリスロマイシンの投与により腸内細菌叢が攪乱されたマウスに対して補中益気湯を投与することで、腸管バリア機能を正常化させ、腸内細菌による腸管上皮細胞への攻撃を軽減させ、神経精神機能の発達への悪影響を抑制できるかを検討している。
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