研究課題/領域番号 |
20K07121
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
窪田 香織 福岡大学, 薬学部, 講師 (60380557)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 漢方薬 / 神経ステロイド |
研究実績の概要 |
女性ホルモンの顕著な変動は、多くの女性に月経前症候群(PMS)、産後うつ、更年期障害、記憶障害などを引き起こす。女性ホルモンは、受容体のサブタイプの発現変化やシナプス数の変化などの神経形態変化や、受容体の感受性の変化などによる神経伝達効率の低下など神経機能を変化させ、多くの症状の誘因となることが考えられている。これらの詳細な神経形態・機能変化を解析するため、PMSの病態解明や治療薬の効果検討を目的としたPMSモデル細胞の作成を目指した。 女性ホルモンのプロゲステロンは、脳内において神経ステロイドを合成し、GABA神経に作用する。神経ステロイドの中でも、3α,21-Dihydroxy-5α-pregnan-20-one(THDOC)はGABAA受容体調節物質であり、GABAA受容体が強く応答する。そこで、GABAA受容体調節物質であるTHDOCやプロゲステロンがGABA神経およびグルタミン酸神経に及ぼす影響についてアストロサイト・単一ニューロン共培養系を用いてPMS神経モデルとなりうるか形態学的解析により検討した。 多くの漢方薬は女性ホルモン変動関連疾患に用いられているが、それぞれの作用機序の差異や、作用の中心を成す構成生薬や有効成分などの詳細は不明である。そこで当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸をはじめとする婦人科処方の漢方薬および構成生薬をアストロサイト・単一ニューロン共培養系に処置し、ニューロステロイド合成酵素(5a reductase)、神経栄養因子(NGF, BDNF)などニューロン形態関連因子の挙動を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度よりアストロサイト・単一ニューロン共培養モデルを用いてTHDOCがP1 ICRマウスの線条体由来GABA作動性神経および海馬由来グルタミン酸作動性神経に及ぼす影響について免疫染色法を用いて形態学的に検討している。前年度よりTHDOC処置濃度の範囲を広げてそれぞれのニューロンに3日間処置したが、グルタミン酸作動性神経においてTHDOC添加による形態学的変化は認められなかった。昨年度よりはTHDOCと同様にプロゲステロンについても検討を進めているが、グルタミン酸作動性神経、GABA作動性神経ともに有意な形態学的変化は観察できなかった。現在の条件での単一ニューロン共培養系をもちいたPMSモデルの構築は難しいことが明らかとなった。 また、婦人科処方の漢方薬に多く含有される生薬をアストロサイト・単一ニューロン共培養系に処置し、ニューロステロイド合成酵素(5a reductase)、神経栄養因子(NGF, BDNF)などニューロン形態関連因子の挙動を解析し、それぞれの因子に対する効果を検討した。 神経ステロイド合成経路や神経形態に影響を与える生薬の同定を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の検討で、現在の条件での単一ニューロン共培養系をもちいたPMSモデルの構築は難しいことが明らかとなったため、最終年度は薬物処置の期間や培養条件を変更してPMSモデル細胞構築の可能性を探したい。 最終年度では、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸をはじめとする婦人科処方の漢方薬だけでなく、精神症状改善に用いられる漢方薬および構成生薬にについてもアストロサイト・単一ニューロン共培養モデルでのニューロステロイドやその合成酵素(5a reductaseなど)、受容体(GABA, 5-HT など)や神経栄養因子などニューロン形態関連因子の挙動の解析を継続する。 その中で変動が生じた漢方薬(生薬)についてはニューロン形態や機能に対する影響も解析する。各漢方薬・生薬の効果を体系的に解析してカタログ化し、新規予防・治療法の構築に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加する予定であった学会がオンライン開催となり、予定していた出張がなくなったため次年度使用が生じることとなった。また、初年度の研究室閉鎖(COVID感染)などで研究に遅れが生じており、最終年度までに実験が完了できなかった。よって2023年度、現地での学会参加にかかる費用と実験に使用する消耗品に充てたいと考えている。
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