研究課題/領域番号 |
20K07123
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
和田 俊一 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (40450233)
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研究分担者 |
奈良岡 征都 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (10455751)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | くも膜下出血 / トレハロサミン / trehalosamine / トレハロース / レンツトレハロース / 抗酸化物質 / 食品植物 / 微生物 |
研究実績の概要 |
くも膜下出血合併症の予防、治療薬の開発を目指して検討を行っている。検討対象としてはトレハロース類縁体化合物群と抗酸化物質に注目している。トレハロース類縁体については、主に放線菌由来の4-トレハロサミン (4-trehalosamine) について検討を行ってきた。安定性の高さや、大量生産法の開発、高分子や細胞の保護効果などについて検討し、また、標識体や界面活性剤などの誘導体を開発し、それぞれの機能について評価を行った。2021年度にこれらについて結果をまとめ、特許出願し、論文発表を行い、2022年度は学会や展示会で発表を行い、それをきっかけに国内外の6人の大学研究者とそれぞれ新たな共同研究を始めるに至った。4-トレハロサミンは、哺乳類体内で安定性が高く、高分子や細胞の保護効果が高いことから、脳保護剤として有用なものと期待される。またIMCTA-C14をはじめ、幾つかの誘導体は他のトレハロース類に比べてオートファジー誘導作用が1000倍以上強く、回復期における組織再生を促進する薬剤として期待される。一方、抗酸化物質に関しては、赤血球成分により処理した神経系培養細胞株内の活性酸素レベルを測定する系を構築し、強い抗酸化活性を示す物質の探索を行ってきた。食品植物溶媒抽出液と微生物代謝産物のライブラリーから、現在までに合計16種類の抗酸化物質を単離、同定してきた。この中には新規化合物3種が含まれている。培養細胞で有効性が確認された開発候補物質に関しては、微生物化学研究所動物施設においてマウスでの有効性を検討し、その後、弘前大学の分担研究者がラットやウサギでより高度な動物実験による評価を行う予定である。マウスでの評価系はまだ結果にばらつきが見られるため改良が必要であるが、ラットやウサギの系は確立されており、トレハロース類縁体群では既に症状の改善傾向が認められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トレハロース類縁体については、安定供給が可能な4-トレハロサミンを主な検討対象として、昨年度までに、哺乳類で体内動態が良いこと、高分子や細胞の保湿、保護効果が高いこと、強いpH緩衝能を示すことなどを確認してきた。またIMCTA-C14を始めとする幾つかの誘導体では、他のトレハロース類に比べてオートファジー誘導活性や炎症性サイトカイン分泌抑制作用が500倍~数千倍強いことが確認されている。これらの結果について特許出願、論文発表してきたが、本年度は学会、展示会での発表を行い、国内外で新たに6人の大学研究者と、トレハロース類の活性や利用法について共同研究を始めることとなった。以前より共同研究を行ってきた弘前大学では、ラットのくも膜下出血モデルの治療実験においてトレハロース類が症状の改善傾向を示すことを明らかにした。また、新たな共同研究先においてもトレハロサミン誘導体の生物活性に関する有望な結果が得られ始めている。一方、抗酸化物質に関しては食品植物と微生物から合わせて16種類の化合物を単離、同定してきた。そのうちの3化合物は新規化合物であり、また、生物活性に関する報告例がほとんどない化合物も幾つか含まれている。新規化合物については、発見に関する報告のために、立体構造や物性に関する検討も行っている。他の化合物についても抗酸化活性の評価や作用機構の検討を行っている。また、現在もそれらに続く新たな高活性抗酸化物質の探索を続けている。動物実験に関しては現在、微生物化学研究所動物施設において、多サンプルを短時間で評価することのできる系として、脳内出血モデルについて検討中である。現在はまだ結果に個体差が見られるため、化合物の効果を評価するためには多数の個体が必要となっているが、この点について改善すべく検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
トレハロース類縁体に関しては、弘前大学で行ったラットのくも膜下出血モデルの治療実験の結果が有望であったため、更に検討を加えていく予定である。実験規模を拡大し、使用する匹数を増やし、まずは使用する化合物の種類を絞り、投与濃度、タイミングを振って検討する。その結果に応じて新たな誘導体の開発も検討していく。特に脂溶性と塩基性を高めた誘導体は効果が高いものと期待されるため、その方向での開発に力を入れて行く。抗酸化物質については、これまで通り、食品植物や微生物培養物の抽出液から、培養細胞の評価系をファーストスクリーニングとして探索を続け、一つでも多くの強い活性を示す物質を発見し、単離精製する。新規の化合物については、まずはその発見について発表できるように、構造、物性、生物活性について検討する。また、新規化合物も含め、生物活性に関する検討例の少ない化合物については、抗酸化活性や抗炎症活性について評価し、またその作用機構について検討する。弘前大学でのラットやウサギを用いた動物実験系で評価を行う化合物を少数に絞っていくために、微生物化学研究所動物施設でのマウスによる評価系の早期の開発が望まれる。結果に個体差が少なく、ポジティブコントロールとしてのエダラボンに十分な治療効果が見られるマウスの脳内出血モデル系の立ち上げを目指す。系が立ち上がるようであれば、培養細胞評価系において優れた活性を示した複数の化合物を評価し、有望なものについて弘前大学でのより高度な動物実験に進める。マウスの脳内出血モデル系がうまく立ち上がらない場合には、マウスに化合物を投与した際の脳組織への移行について評価する系を立ち上げたり、市販の培養細胞を用いた評価キットを用いたりして、血液脳関門透過性の高い化合物を見出し、弘前大学でのラットやウサギを用いたくも膜下出血モデルでの検討に進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者や研究協力者の新型コロナ感染が重なり、予定していた実験について多少遅れが生じたが、急いで雑な検討を行うより、無理をせず余裕をもって行った方が良いものと判断して期間を延長して次年度に繰り越すこととした。繰り越し額については大きなものではないので、計画通りに行う実験のための物品費の購入で消費する予定である。
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