研究課題/領域番号 |
20K07137
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 小夜 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (90424134)
|
研究分担者 |
中村 智徳 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (30251151)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | がん / 胆汁酸 / 薬剤反応性 / スペシャル・ポピュレーション |
研究実績の概要 |
特別な背景を有するスペシャル・ポピュレーションは、一般に新薬開発時の臨床試験対象とはほとんどならないため、実臨床での化学療法実施に際しては臨床症状や治療方針、リスク・ベネフィットを考慮した適切な用量調節が必要である。 我々は、遺伝子の転写発現調節を司る生理活性物質として注目されている胆汁酸に着目し、胆汁うっ滞型肝障害や肝外胆管の閉塞等に伴い血中で上昇する範囲の低濃度胆汁酸成分(ケノデオキシコール酸:CDCA)がヒト乳がん細胞株MCF-7のドキソルビシン(DXR)感受性を低下させることを見出している。本研究ではその影響と機序について明らかにし、血中胆汁酸濃度上昇を呈する患者のがん特性や使用抗がん剤を考慮した治療を目指す。 2021年度は、2020年度からのMCF-7を用いた胆汁酸のがん細胞増殖及び薬剤感受性に影響するメカニズム研究を継続し、幾つかの興味ある知見を得た。胆汁酸受容体TGR5遺伝子発現量はアゴニストであるCDCAにより上昇したが、CDCA単独曝露よりもDXR曝露後のCDCA曝露によりさらに上昇した。その下流のCREB遺伝子発現量には著変なかったが細胞周期調節に関与するCDK6やp21遺伝子発現量はDXR曝露後CDCA曝露により顕著に上昇し、CyclinD1遺伝子発現量はわずかに上昇した。胆汁酸核内受容体FXR遺伝子発現量もCDCA曝露により上昇したがDXR曝露後のCDCA曝露ではさらに上昇した。NF-κB2遺伝子発現量はCDCA単独曝露時には変化せずDXR曝露後のCDCA曝露により上昇した。Akt及びBcl-2遺伝子発現量は著変なかった。 胆汁うっ滞・担がんモデル動物を用いたDXR治療反応性への胆汁酸の影響検討に向けた予備検討を行い、胆管結紮マウス及びCDCA腹腔内投与マウスの2種類を作製し、経時的採血により各種血中胆汁酸濃度を測定し、モデルの適切性を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究1年目から継続していた、ヒト乳がん細胞株MCF-7を用いた胆汁酸のがん細胞増殖及び薬剤感受性に関する検討において、胆汁酸成分CDCAの曝露/非曝露、抗がん剤DXR曝露/非曝露の異なる条件により遺伝子発現量が異なるプロファイルを示す複数の分子を見出し、そのうちの多くが低濃度(10μM)CDCAにより変動しただけでなく、CDCA単独曝露時よりも抗がん剤DXR曝露後にCDCA曝露した場合のほうが顕著に上昇した。さらにがん細胞の分化・増殖、進展に関わるキー分子であるNF-κBに関わるNF-κB2遺伝子発現量も、CDCA単独曝露では変化せずDXR曝露後のCDCA曝露により顕著に上昇した。これらの知見はCDCAによる細胞増殖もしくは抗がん剤感受性低下メカニズムが抗がん剤による細胞障害時により発揮される機序である可能性を示唆するものであり、実臨床においては、化学療法実施後の薬剤性・胆汁うっ滞型肝障害発症時の治療反応性に影響を及ぼす可能性を示したものと考える。 また、胆汁うっ滞・担がんモデルマウス(in vivo 実験)による検証作業を進めるために、胆管結紮マウス及びCDCA腹腔内投与マウスの2種類を作製し、実験を予定している14日間の経時的採血により12種類の血中胆汁酸濃度を測定し、CDCAを含む一次胆汁酸、二次胆汁酸及びそれらの抱合体の経時的推移を確認できたため、動物モデルの準備が整った。これにより今後のin vivo 実験、及び採材を用いた作用メカニズムの検証も可能である。本研究課題の進捗状況はおおむね順調と考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題3年目の2022年度は、胆汁うっ滞・担がんモデルマウス(in vivo 実験)を用いて、血中胆汁酸濃度上昇による腫瘍増殖および抗がん剤DXR治療反応性に与える影響について検証する。具体的には、未処置(胆汁非うっ滞)及び胆汁うっ滞の各モデルに対してDXR曝露/非曝露の計4群について14日間経時的に腫瘍径を測定し、14日後に腫瘍重量及び肺結節(転移巣)の計測によるDXR治療反応性の評価、MCF-7を用いた遺伝子解析により見出した候補分子について採取腫瘍組織中の遺伝子及びタンパク質発現量測定によるメカニズムの検証、血中胆汁酸濃度測定による胆汁うっ滞状態の確認などにより、血中胆汁酸濃度と治療反応性およびメカニズムの検証を行う。また、最終的には臨床データを用いた検証作業も進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、元々の2021年度交付予定額にほぼ相当する使用であった。2020年度、COVID-19 pandemicにより胆管結紮モデル作製の予備検討が途中で中断したために2021年度に繰り越した未使用額にほぼ相当する額が、ほぼ今回の次年度使用額としての繰り越しとなった。2022年度は繰り越した次年度使用額と2022年度交付予定額と合わせてin vivo 実験の実施及び臨床データを用いた解析の実施に使用する予定である。
|